doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

さんぽ②

f:id:donitia:20190731134646j:plain

 

 

 忘日ふと、谷地を歩いてみようと思った。

 谷地とは、丘陵地浸食されて形成された状の地形である。また、そのような地形を利用した農業とそれに付随する生態系を指すこともある。谷戸などとも呼ばれ、主に東日本関東地方東北地方)の丘陵地で多く見られる。・・・(whekiさん)」

 何用有ってそんなところを歩くのか? 別に何用もないけれど、ごろちゃらばかりしていると腹が出てきてかなわない。みるみるズボンが履けなくなってくる、ズボンを買うのは貧乏故、なし能わざるところ、ならば腹を凹ませろ! ために歩け!

 

 谷地入口に到着。まだ9時ころだというのに、すでにして汗みどろ。コンビニで握飯調達、ついでにスカーフを濡らして首に巻く。さて、正面のでかい道路に入って先へと進む。写真ではよくわからないが右左が低い丘陵となっていて真ん中を丘陵から湧き出た水を集めた川が流れている。

f:id:donitia:20190731141108j:plain f:id:donitia:20190731141149j:plain

 

 

 しばらくして道路の西側に川、「谷地川」という。川床の大部分を、たけり狂ったような夏草が埋め、上流のほうであのでかい道路の下をくぐっている。川の両脇には遊歩道が整備されているので、どこまでだか知らないが川岸をたどることができる。

f:id:donitia:20190731142214j:plain f:id:donitia:20190731142253j:plain

 

 

 東京にだって自慢じゃないが道の駅がある。谷地川の岸辺の小道が、ちょうどその道の駅の裏に出た。久しぶりに立ち寄ってみたが、農産物直売所に人は少ない。開店した当時は新鮮野菜が手に入ると人気だったらしいけど、だんだん寂れてきた。

 農産物直売所はそこいらにうんとある。しかしスーパーの品より新鮮でかつ安くなけりゃあ、誰も買わないのは事の道理。なのにどうも直売所は、農協に出荷した後のはね出し物をスーパー並みの値段で売っているのではないのか、と疑う。

 でもまあ、青紫蘇が新鮮そうだったので本日のお土産、と小さなトマトの袋入り、これは我がおやつ。早速ながら冷房室内のベンチでトマトを10個ほどむしゃむしゃ食う。案外イケますな、水分補給にもなるんじゃないかなあ。

 

 岸辺の小道は贅沢にも煉瓦敷きだったり青々とした草が生えていたり、ときに舗装、ときに砂利と様々。でも草の道が一等いい。細い黒いトンボが道脇から、わらわらひらひら飛び出すが、ちょっと近づくと逃げてしまい、どんくさい爺いは写真に撮れず。

f:id:donitia:20190731144327j:plain

 

 

  よく見れば意外と草地に花が咲いている。名前は知らないけれど立ち止まってちょっと見るぐらいの風流心(?)はある。生物、いずれも今を懸命に生きようとしている。DNAの取り計らいだろうか?

f:id:donitia:20190801085045j:plain f:id:donitia:20190801085128j:plain

  ↑ 初めて見た花 

f:id:donitia:20190801085421j:plain f:id:donitia:20190801085501j:plain

 

 

 だんだん暑くなってきた。樹木が無くなってお日様が真上から、これでもかと照り付ける。川面を覗いてみるとうす濁りの水の中に、針ほどの魚のベビーがふらふらしている。5cmほどの少年もいる。青年ほどのものはいない。アブラハヤか、いやオイカワだろうか、網を持って追いかけたい。

f:id:donitia:20190801090801j:plain

 

 

 あまりの暑さに堪りかね、橋の袂の木陰の石に腰を下ろしていたら、軽トラックを運転していた娘っ子が怪訝な顔で通り過ぎた。暑さにやられた行き倒れの爺いと思われたかもしれない。やばいから歩く。

 木陰はないか、木陰はないかと思いながら歩いていたら、道の辺に小さな神社発見、これはもう救いの神ならむ、へたりこむように陰になった社殿の階段に腰を下ろす。少し早いけれど、もう昼飯にして少しゆっくり休もうと思う。

 汗を拭き水を飲み少し落ち着いて、握り飯を齧るが1個食ったらもう食いたくない。ミニトマトをぼりぼり食って、これは旨い。煙草をふかして背中にほんのかすかな風を感じる。物音もなく人影もなく、こんな日盛りに表に出ているのはたった一人。

f:id:donitia:20190801092826j:plain

 ふと狛犬の台座を見たら「結婚50周年記念・ナンの〇兵衛・妻〇〇」のプレートが目に入った。ふーむ、考えさせられた。こういうものを記念して神社に奉納する、その心情は、自分には遥かはるか遠いもののように思える。半分? で半分感心。

 

 

  昼飯を食いゆるりと休んで少し元気を回復して、また歩く。が暑さは鬼のようでもある。そして川面は葦のジャングルのようになってきて、ついに左岸が行き止まりとなりしばらくして右岸も行止まった。

f:id:donitia:20190801095128j:plain

f:id:donitia:20190801095156j:plain f:id:donitia:20190801095231j:plain


  

  もはや脇の街道に出るしかない。街道は建物も影を作らず、真上からガンガン来る。街道ばかり歩くのはナニなので、ときどき横道に入って川の存在を確認。当然川べりの道はない、どころか川が埋まってしまっている。暗渠にしたのだろうか? なぜ?

f:id:donitia:20190801095943j:plain f:id:donitia:20190801100031j:plain

 

 

  こういう地形のところには田んぼがあるはずだがなあ、と思っていると案の定小さな田んぼが現れた。脇の丘陵から湧き水があり、その水を利用している。あてにならない想像だけれど、このような小さな湧き水、あるいは谷地川の曲流した場所、そういうところに昔は田んぼが多かったに違いない。

  昔の田んぼは大河の脇にはできないから、小さな流れや湧き水を利用するしかなかった、と想像する。考えてみれば、水の調節がとても難しかったのだろう。なんでもコンクリートで作っちまう今とは事情がまるで違う、のだと思う。

f:id:donitia:20190801101200j:plain

 

 

  歩いているところに気の利いた休憩所などないから、空地だろうが草地だろうが木陰のある場所でなに構わず休むしかない。道路わきの草地に座り込んでいたら、ちょうど高校のスクールバスが信号で止まった。窓からこちらを見てうすら笑いをしている男子や女子がいる。

 おい、見ろよ、あそこで爺いがくたばり損なっているぞ、馬鹿な年寄りだなあ、なんて言ってるに違いない。こちらからはこう言ってやった。いい若えもんが、狭まっ苦しいバスの中で何してんだ、こっちのほうがよっぽど面白いぜ。

 

 

 やがて谷地川は街道の傍を離れ、西側の丘陵に入っていく。その流れ出しの一滴など無論確認する気はないが、出来る限り迫ってみよう。近頃目標、目的などというものを何処かへすっかり流し去ってしまったが、今日は違う。目的は、可能な限り源流部へ。

 街道を逸れた細道は狭い谷となって奥へと続く。道脇にぱらぱらとわずかな民家、でもひっそりかんとして無人の里のごとし。川は細流となって枝分かれし、どれが本流か把握できないので一本一本に入ってみる。

f:id:donitia:20190801135316j:plain f:id:donitia:20190801135417j:plain

 f:id:donitia:20190801135654j:plain f:id:donitia:20190801135814j:plain

 一本目、二本目は程もなく行き止まりとなり合流点に引き返す。3本目は少し長い道のり。護岸もしっかりしているからこれが本流かもしれない。周りの民家に人の気配もないが、この辺りから秋川へ抜ける近道がないかなあ、と思う。

f:id:donitia:20190801140444j:plain f:id:donitia:20190801140513j:plain

 3本目も最後は砂利道となって藪の奥に消えていく。これ以上溯っても藪をバサバサ漕いでいく羽目になりそうなので、不完全ながら源流部探索はこんなものでお茶を濁す。大大河の最初の一滴を探索するわけではなく、たかが谷地川(しかし1級河川)の源流を極めてどうする、と自分をごまかしながら。

 

 さて、これでまた街道まで戻るのは面倒くさい。この辺りから秋川沿いに出られれば願ってもない近道、だが、グーグル君は道なし、という。確認したいが人影もなし。いたし方がなければ仕方がない。街道まで戻る。

 この辺りからいやに体が熱くなり、後頭部など帽子をかぶっていても何だかジンジン痺れるようだ。とともに猛烈に喉が渇いてきた。持参の水はもはや残り少ないから、万一を思って残しておきたい。自販機はないか?

 自販機、自販機と念じながらも、丘陵の鞍部越えだから人家も自販機もあるはずもない。なければ一層喉が渇く。渇いたって無いものはない。よろぼいながら街道の鞍部をようやく越え、向こうに秋川圏央道のぐにゃぐにゃが見えてきた。

f:id:donitia:20190801142444j:plain

 

 

 多摩川を渡って秋川の市街地に入る。市街地だから自販機があった! 500mペットボトル一気飲み。これで元気が・・元気が・・出ない! なんだか猛烈に気怠い。ほんのちょっと歩いただけで休みたくなる。ここで休み、あそこで休み、一体どうしちゃったんだろう。

 駅までもうすぐのところで蕎麦屋見っけ。やれありがたや地獄に仏、疲れにオロナミン。扉開ける。婆さん出てくる。「あのう~、いま営業終了しました。10分前に」がび~~ん、一気に全身の力が抜け流れていく。

 へたり込もうとしたとき目の前にファミレス現る。ファミレスだろうがニアミスだろうがこの際構うものか。しかしこれは正解だった。第一に広い、涼しい、人がいない、第二に安い、飲み物豊富。何はともあれ、ビール。

f:id:donitia:20190801144044j:plain

 

 ビール来る。菜っ葉も来る。ビール飲む、が二口目が飲めない、飲みたくない。いつもの、うぐうぐができない。変だなと思う。少し休憩、眠くなる。落ち着いたようなのでビール開ける、ハイボール頼む。

 飲み物はなんとか腹に入った。が、菜っ葉はほとんど喉を通らず。そのうちに、今飲んだアルコールが猛烈な勢いでからだ中を駆け巡り始めたような感覚、エラク酔ってきたような、それでいて気持はどんより沈んでいく。

 ビール、ハイボールたった一杯で小一時間もファミレスで座り込んだ。そして少しづつ平常に戻ってきた。駅に向かう。4時半ごろの電車、口紅べったりの女子高校生たちがうろうろしていて脅かされる。

 

 

 この熱署になんばしよっとかね!

 行き倒れになっても知らんきに!

 と誰かに怒られた。