doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

ろうばいでろうばい

 

 正月太りの解消を目指して、いざ散歩に行くべし。

 一年で一番寒い時期の、春を欺くが如き晴天、温くぬくの日。

 今はやっぱり蝋梅かな、てなわけで府中郷土の森博物館目指して、のそのそと。

 

 

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 分倍河原駅前にて新田義貞の出迎えを受ける。うむ、くるしゅうない、出迎えと歓迎、大儀であった。しかしながら君は、かの国分寺の大伽藍を無思慮無分別に焼き尽したかどにより、後世の評判あまり芳しからず、以後、心して置けよ。

 さてこのあたりは、鎌倉幕府滅亡の序曲、分倍河原合戦の舞台。小手指が原、久米川の合戦の後、この地において新田軍優勢に立ち、一気に鎌倉を落としたという。北条の鎌倉は弱り目に祟り目だったのか、どこの馬の骨なる一関東武士に滅亡させられたり。

 

そんなわけで、駅からちょっと離れた緑地に古戦場の記念碑がある。その場所には細い川が流れ、心地よい緑地として整備されている。が、当時は石ころの河原だったのか、畑や田んぼがあったのか、俤を探る手立ては今、更に無し。 

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  郷土の森博物館へ続く緑道には、春の小川みたいに密やかな流れが造られ、末は小さな池に通ずる。冬の陽は燦々と、そしてきらきらと隈なく水面を照らし、池の縁に紅梅が一本、既にその花のほころびてほのかに香ばし。(なんだけれど、写真じゃどこが梅の花じゃ! てな具合。少年の銅像の手前にありま)。麦わら帽子の少年の、初々しきおしりを向けたその目はいずこを眺めるや。

 冬枯れとは言え、緑道の周りには田んぼが残り、稲の切り株が日向ぼっこをしている。府中は、駅の周りは大都会のようだけれど、少し離れた多摩川寄りは田んぼ、畑が広がるような土地柄、都会と田舎がちょうど按排がいい。

 

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  さて、郷土の森博物館は公園であって、博物館のほかに、郷土の古い建物が移築され、数々の樹木、花が植えられ、特筆は蝋梅の森と梅の林。以前、その時期に訪れ、蝋梅の藪の圧倒的な冬の明るさと、その香りにびっくらこいたので、今日来てみた。

 然るに、なんと。「本日休館日」! がび~~ん!! 

 いつもだ、調べもしないで、とにかくホイホイ出かけてしまい、結果、ポロリと泣きの涙、何度やっても懲りない。どうも変だ変だと思ったが、頭のネジが3本ほどぶっ飛んでいるに違いない。お~い、オレのネジは何処へ行ったあ~。

 

  しかし待てよ、確か蝋梅は園の端っこの多摩川寄りに植えられていたはず、ならば表から見えないか? で、公園外周をぐるりと回る。フェンスの間から少しばかり見えたことは見えたが、当然ながら写真に撮りにくい。ま、しかしやむを得なければ仕方ない。府中の蝋梅で狼狽! 

 

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 まさか蝋梅に狼狽させられるなんて! 思ってもみなかった。だがさて、これからどうする か、頭の中はただただ空白、空虚、白々。ふと脇を見ると、多摩川の土手に暖かき冬の陽が照り輝き、遥かに白雪の富士そして散歩する人。とりあえずここを歩くべ。

 川を渡る風は寒中とは言え暖かく、さわさわと爽やかでさえある。しっとりと背中が汗ばんできた。この冬は現在までのところ各地暖冬らしい。雪がなくてスキー場は困る、だけど膨大な除雪費が助かる、という話も耳にする。喜んでいいのかどうか?

 

 

 かなり上流まで歩き、関戸橋を渡る。多摩川の水は台風以来かなり長いあいだ笹濁りだったが、いまはきれいな澄んだ水が流れている。上流の京王線の鉄橋を長い電車が通り抜けていく。これから、そうだな、向こう岸の小野神社へでも行ってみようか。

 

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 その前に、聖蹟桜ヶ丘駅の近くで昼飯にしよう。スマートフォン蕎麦屋を探す。ビルの中だったので分かりにくかったが、とにかく蕎麦屋到着。例によって例の如く、盛り蕎麦と日本酒一杯。冷たい辛口の日本酒(銘柄:夜明け前)が喉に心地よい。

 小皿の上に置いた小さなコップに酒をなみなみ注いで、小皿の上にこぼす。どうしてこんなことをするんだ。こぼれないようなコップに注げばいいじゃないか。この方が景気よく見えるから? だいたいねえ! 1合の酒を7勺ぐらいに誤魔化すのがいくない!! 1合なら1合、その分高くすりゃあいい。ちょろまかし貧乏根性に反対するゾ。

 意外や! と言っては失礼だが、蕎麦が旨い。ほのかな香り、のど越し。この店は信州の蕎麦と酒を、誇りをもって商うらしい。値段も高くない、1500円。う~む、気に入ったぞ。また来る機会があるかどうかわからないけれど、箸袋をそっとポケットへ。

 

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  一杯の酒に心地よくなって春のような風に吹かれて、近くの小野神社へ行く。武蔵国一之宮だそうだから、一番偉い神社に違いない。にしても、何たるハデハデの神社であろうか! どっしりした唐破風の門の向こうに、炎のような真赤っかの拝殿が見える。

 近づいてみると、拝殿もその奥の本殿も、燃え立つような赤。神社と言えば白木の神さびたような古格のものばかり眺めてきたので、この色合いにはともかくびっくらする。朱色ともベンガラとも少し違うようだが、まさかペンキ? な訳ないか。 

 

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 空はどピーカン、風はそよら。さてさて、これから大栗川の岸辺を、ふらりふらりと行けるところまで歩いてみようと思う。この川は多摩丘陵の西、多摩美術大学のある丘陵から湧き出し、谷筋の水を集めて聖蹟桜ヶ丘駅の下手で多摩川に注ぐ。

 多摩ニュータウン造成にあたり、この川の両側から、すんげえ~数の縄文遺物が発掘され、センター駅近くの都埋蔵文化財センターに収められているのだが、弥生の遺跡はふっつらとかき消したように無いのだそうだ。縄文と弥生の間に何があった?

 

 

 

 大栗川の岸辺。この辺り(聖蹟桜ヶ丘駅近く)護岸は美しく石積みされ、遊歩道が整備され、至れり尽せりの観あり。明るくて、清潔でヨボタレたところがないのだから、住民の方々に大切にされている川なんだろうな。

 

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 中流域に入ると草の土手になった。ふかふかの下草は春が来るのを今か今かと待っている、らしい。川面がきらきらと輝いて眩しい。草の上に腰を下ろして一服、なんという良き日なんだろうかと思う。蝋梅で狼狽なんて忘れてしまった。

 

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 川の脇の小公園は人影もなく、しんとして静か。草の上に寝転んでぬくとい陽差しとそよ風に包まれる。草の上をスズメより少し大きな鳥がチョンチョン飛びながら言った。「なんだオメエ、ぐだぐだぶっ転がって、ったくもう。俺を見るがいいだ、食うために朝っぱらから暇なしに動いてるだよ。見習ったらよかんべえに」

 小鳥ごときが何を言おうと知ったこっちゃない。ぶっくれの体を休めて、つかの間の休息に浸っているところを、うだうだぶつぶつ言ってもらっちゃ困る。それ見ろ、向こうの小山はなにかの塚じゃないのか?

 

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  そんなこんなで、よたよた歩いて、向こうの赤い橋の上にモノレールの駅が見えた。ここは大栗川の中流域、大塚帝京大学駅。歩行距離も15㎞ぐらいになったので、今日はここからモノレールで帰んべえかと思った。

 そう思ったのだが、小鳥メがあんなこと言うし、陽はまだ明るいし、そよ風も気持ちがいいし、耳元で誰かが囁く。「おいこォらぁ!、これぐらいでへばってどうするでえ、歩けこの、ばぁろう」・・・へい、じゃもう少し。

 

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 モノレールの下を歩く。なんとこれが上り坂一徹。胸突き八丁とまではいかないが、だらだらと緩い上りがずうっと続く、まだ続く。次の中央大学・明星大学駅付近でようやく少し平らになったが、みんなに馬鹿にされて悔しいからもう少し歩く。

 向こうにトンネルが見える。モノレールは潜り込んでいるらしい。上り坂の頂上だな、おーし、あれを抜けて坂を下ったところまでは行くぞ。追い抜く輩は若い学生さんばかり、たぶん、よたよたの爺さん大丈夫かあ、と心配してくれたに違いない。

 下りきったところが多摩動物公園駅。陽も傾いて陰ばかりとなった。ここまでだな。情けないことだが、もう歩けない。よろめきつつ駅のエレベーターにたどり着き、ふらつきつつエスカレーターでホームに出た。動物園の門ももう閉まっている。

 

 

 帰宅したら、歩行距離20㎞(歩数換算だけれど)。

 家の階段をよろよろよたよた。やっとこさ湯に入って、

 チュウを生のまま、ぐびり、またぐびり。

 蝋梅はどうなったっけ。いやはや。