立川崖線(府中崖線ともいうらしい)を歩いてみようと思う。
しかし普通の地図じゃあ、崖線が表示されていない。しょうことなしに、ネットで検索して比較的解り易い地図をお借りし、ちょっと加工した。しかしこれだと、普通の地図のような道路、地名、建物名がないのでその点が難しいなあ。
やむを得なければ即ち仕方がない。間違えて春になったような温かい忘日、西立川駅から南へ歩く。都の農林試験場というのがあって、中の桜がちらちら散り始めていた。早いなあ、と思って幹の名札を見たらカンザクラと書いてある。
小鳥の声が盛んにするので見上げると、中くらい小くらい、いろいろいた。名を知らぬから困る。が、ちょっと近づくとたちまち姿を隠す。よほど彼らに嫌われているらしい。そう考えて大いにメゲル。
この施設と道路を挟んですぐ南が立川崖線となっている。ハケ(崖)の途中から、昔は湧き水が出ていたのだが、その気配さえ微塵もなくなっていた。多摩地方のハケの湧水は、どこも枯れてしまっているようで悲しい!
ハケの斜面に小さな花をつけた桜があった。名前を見たのだがケロッと忘れてしもうた。だから名札を一枚パチリしておけ、とそのとき自分に言い聞かせたのだが、な~~に、だいじょうぶだ~~、で大丈夫じゃなかった。
崖線を見失わないようにしつつ、しばらく多摩川の下流方向に歩くと残堀川に突き当たる。いつ見ても水が流れていない川。写真奥の壁の、その右がこの川の上流になる。つまりここで川は直角に曲がっているのだ。自然の流路はこんな曲がり方はしない。
残堀川の岸辺を下流に行く。ハケの上にあるお宅から、見事な木瓜の花が、なんとまあ、枝垂れている。木瓜という木もこんなことになるんだなあ、感心しきり。それにしてもまだ2月、こう春の花が咲いたんじゃあ、今日の日に間に合わねえ。
根川緑道を通って、モノレール柴崎体育館駅下の立川公園へ。立川崖線は駅の北側を通っているはず、がそこへ行くのはどうすればいい? 公園の奥に見える崖に沿ってそのまま行けば、多摩川へぽちゃん! だぞ。
仕方がないので崖の上に登ってみたが、立川崖線らしきものは見当たらない。う~~む、この辺りがいちばん難しそうだなと思っていたが、やはり立川崖線はどこかへ姿を隠してしまった。お~い、どこにいるんだあ~、崖線!
しばらくうろうろしたが分からない、止むを得ない、即ち仕方がない。国立との境、南武線の線路際に矢川緑地というのがあって、そこには立川崖線の湧水があるはず。とりあえずそこへ向かおうと歩き出し、立川通を横断する際、ひょいと左を見たら道路が先でぐんと持ち上がっている。たぶん、これは崖線を均したものだろう。
近寄って、狭い路地を今来た方角へ歩いてみたら、北側の住宅が石積みの上にある。これはもう立川崖線に間違いない。自転車の爺さんがいたので聞いてみた。「うんにゃ、ここが立川崖線だ。この道の下を矢川緑地まで川が流れているだ」
立川通まで戻って先へ進んだが、しかし崖線らしき崖は見当たらない。両側は住宅やビルが建ち、ちょっと見ると平坦地に見える。ちょと不安だが、まあ、果報は寝て待て、立川崖線は寝ながら探せ!
矢川緑地の近くまで来たが入口が分からない。庭に出ていたおばさんに聞いてやっと見つけ、入ってみる。疎林の向こうに湿地帯が広がっている。ハケ下から湧き水が滲み出すように出ている。真ん中には浅い矢川の水が陽に煌めきつつ流れている。
ここは間違いなく崖線の下だな、とわかる。なだらかな傾斜だが、北に向かってだんだん高くなり、下に湧水の低湿地が広がっている。矢川は立川崖線の湧水を水源とするらしいから、自転車の爺さんが教えてくれた道路下の川、というのが矢川だろう。
矢川緑地を出ると崖線は歴然としている。住宅地の北側の家がみな石積みの上に載っている。ああよかった、一時は見失ったかに思った崖線にまた出会ったので、旧知の人に会ったような気がする、てえのは、大げさだよな。
ほどなく南武線の線路に突き当たった。踏切を渡って向こう側へ行っても崖線は住宅の中に続いている。さて、ところで腹が減ったようである。矢川の駅前に出て飯屋を探す。(握り飯は例の如く背負ってはいるけれど)
蕎麦屋見っけ。表に数人並んでいる、ということは旨い蕎麦屋らしい。日ごろは並んでまで飯を食う気はないが、すぐ入れそうだから待つ。前の人が入ってしばらくして、上品なおばさんが現れて中へ入る。
ほぼ満席。今日は春のような温かさでぶらりと出てきた人が多いらしい。客あしらいはこの上品おばさん一人でやっているが、テーブルを片付け、きちんと拭いてからでないと決して次の客を呼び込まない。例によって盛り蕎麦と日本酒。蕎麦は少し遅れる、と言ってまず酒来る。
突き出しでちびちびやっていたら蕎麦も来た。信州蕎麦だから少し強いが旨い。蕎麦をもそもそ口へ押し込んで食う人もいるが、辺りはばからず思い切り、ずっずず~~と啜りこむ。こうでないと蕎麦を食った気にならない。
酒も雑味がなく旨い。これも信州産らしい。蕎麦600両、酒650両、これでどちらも旨いから、いい店に巡り合ったものだ。蕎麦を、何事かたいそうな大御馳走の如く恭しく出す店もあるが、こんなもなあ、最底辺の食い物だと思っている。
一合の酒だけで、頭の中に春霞がかかった如くほんわかとなる。
蕎麦を啜りつつ、酒をちびりつつ
春の昼の時間が流れる。
(駄ブログなれど続くのだ)