前回は分倍河原駅まで歩いたので、今回はその続き。
忘日、今日もまた春を欺くぽかぽか陽気、寒い日は家の中で震えていて、温とい日だけ這いだして歩くを身上とする(虫だ)。電車はともかく空いていた。家の中に閉じこもってトイレットペーパーを買い占めるべし、とお達しが出ているせいかもしれない。
立川崖線は分倍河原駅の北側すぐのところに存在していた。有難いことにハケ(崖)の下に細い道が通じている。斜面には木々が鬱蒼と茂り、誰も通らない道をのんびりと辿っていく。しかしこの細道もだんだんとハケの上へと登っていくようだ。
そうして府中本町駅前に出た。駅東側の広場がきれいになって、「古代武蔵国の国司館跡」公園として、建物跡に建てた列柱やジオラマ風模型台が整備されている。武蔵国府があった(大國魂神社の脇)のすぐ南西にあたる。
立川崖線上の台地が多摩川の沖積地へ向かって張り出しているから、たぶん見晴らしがよかっただろう。国司の執務室兼居宅があったらしく、また家康もここに御殿を造営したという。公園はまだ造りかけ、という感じで更にいろいろ整備されると思う。
駅の通路を通って南側に降りてみた。ここから見ると駅舎は3階ぐらいの高さにあり、明らかにここが立川崖線の下だ、とわかる。しかしこの先は南武線の線路が遮っていて、どこが崖線なのか分かりにくい。崖線や~~い、どこだあ!
うろうろとお寺の裏側などを探し回って、結果、東京競馬場の北側道路に出た。そこに祀られている「競馬の不動明王」の後ろ側が崖のように見える。更に行くと駐車場の向こうが、きっかりと崖線であることが分かった。やれ、ありがたや。
競馬場の東側に「乗馬センター」がある。今日は閉館しているようだが、ポニーと白馬1頭が表に出ていて暖かい陽差しを喜んでいる。「おい! 近寄るなよ。おめえたち二足動物のコロナがうつるでねえか、俺たちマスクするのにどうすんだよ、こっちへ来るなってば! 」
競馬場を過ぎてしばらく行くと、いきなりドカンと「東郷寺」があった。予期していなかったので、いささかたじろいでしまった。急傾斜の階段を上った先は立川崖線の台地の上、境内はものすごく広い。東郷平八郎さまさま。
鬼のように広い境内の半分が墓地になっているが、その境界に背の高い樹木が植えられて墓地が直接見えないようになっている。ひとりの紳士と娘らしい若いお嬢さんが、高級車から降りて墓地の中へ入っていった。
500mぐらいも歩いた一番奥まった場所に、東郷平八郎の記念碑みたいな塔が青空に聳えている。ただ文字がつぶされているので読めない。その隣に元帥の墓があった。 この寺は彼の別荘地だった由。それにしても、広いゾ!
さて、その先でまた崖線の形がはっきりしなくなった。なるべく北側寄りに道を選んでいたら、ここは崖線だろう、と思われる細道があった。どうも崖の中ほどに作られた道のように見える。
進んでいったら「まむし坂」という石の標識を発見した。これはもう間違いない。ハケを登る道には、しばしばけったいな名前が付けられている。今回出会った坂の名は、ここのまむしのほかに、「おっぽり坂」「庚申坂」など。
辿っていくにつれ、この道はハケの途中に付けられた道であることがはっきりしてきた。ハケ下の家と台地上の家との高低差がこんなにはっきりしている。細道は向こうの電柱の並んでいる方へ続いている。
ハケ下の道をたどりたいが、畑や荒れ地で適切な道がない。止む得なければ即ち仕方がない。当面この道をたどるしかない。しかしこの道は突き当たらないでずっと続いている。昔からの古い道はこういう特徴がある。
道はハケの上の方へ登ったり、下の方へ近づいたりしながら続く。南側には車返の大団地が明るい陽に照らされて、至って平和な風景が見える。わが日本お得意の文化「ことある度の買い占め騒動」もどこの話かと思う。それにしても、いつもいつも買い占めるのはトイレットペーパーというのはどういうわけだろう?
うまい具合に下へ降りる道があったので下ってみると、この道はもう歴然とハケ下の道、立派な住宅が、ちょうどハケの斜面の上に下駄を履いて並んでいる。そして中央高速をくぐっても、歴然として崖線の石積みが続いていた。いつの間にか調布市域に入っている。空はまだまだ明るい。
少し傾いた日差しの中を大変に気分よく歩き続けて、もうそろそろ3時、そして京王相模原線の線路に突きあたった。さて、と考える。まだ歩けるし、日だって暮れそうにない。ただ終点まで行くと、適切な距離に駅がない。
ま、楽しみは後へ残しておく。後日がないわけじゃないし、立川崖線は逃げたり消えたりしない。てなわけで、線路際を歩いて京王多摩川駅へ。残るはあと半日行程ぐらい、また、うらうらとした春の喜びをかみしめながら歩こうと思う。
本日の昼飯は、さすがに途中で握り飯。
歩いた距離は、13㎞ぐらいかな。
春の花、仏の座が今日一日を歓迎してくれた・・・ように思う。