doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

八高線・再び(拝島~金子)

八高線のみぎひだり

     脚のむくまま気の向くままに

               烏が鳴いたら帰ろかな  

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 八高線沿線の鄙びた風景が好きで、今まで何度も沿線沿いのあちらこちらを、ほっつき歩いた。でも今回は、いままで歩いたことがない道をなるべく選ぼうと思う。

 八高線というからにゃあ、八王子起点とするが妥当だろうけれど、八王子~拝島間は住宅ばかりで至って面白くないから、おろ抜いて拝島から歩き始めることにした。

 

 

 拝島からほんのちょっとの間、線路は玉川上水に沿っている。その区間は雑木林の小さな公園になっていて若葉が美しい。そこへ八高線は入り込んで、上水の上を鉄橋で越え、そして八高線は北へ、上水は北西に向かって分れてしまう。

 そこの玉川上水が不自然に北側にくにゃりと曲がっているのは、この場所で上水の流れが地中に滲み込んでしまったため、ほんの少し北側に流路を変えたのだそうだ。今も流れの南側に当時の古い堀の跡が、その名も「水喰らいど公園」の中に残っている。

 

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 さて、八高線に沿って歩くには、福生市を串刺しに縦断しなければならない。住宅ばかりが並んでいるので面白みはなく、ここで既に歩き疲れてしもうた。しかしこれを抜けなければどうにもならないのだから、止むを得なければ即ち仕方がない。

 そうして、右、即ち東側の横田基地と、左、即ち西側の八高線とに、キチキチに挟まれて街道が終わり、八高線は基地内の雑木林に突入する。やむを得ず線路の西側に移るしかない。この辺りでようやく福生市は終わるのだが、福生市縦断は長いなあ!

 

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 それで東福生駅前を過ぎたところが米軍の住宅地らしく、広々とした敷地にゆったりと大きな家が並んでいる。その周りには日本住民の家々が、おもちゃのようにきっちりと軒を並べ、肩をすくめるように込み合っていて、あまりにもムキツケな対照に、なにやら口の中でつぶやきたくなってきた。 

 交差点で道路を北東方向へとると、横田基地の北端に出た。今日は飛行機運転の練習日なのか、黒くてごっつい鉄の塊みたいな軍用機が次々と着陸していく。長閑な春の日など構ったこっちゃなく、わんわんごうごうと風を突いて降りて行く。

 

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 飛行場の爆音と、国道16号の車の軋みとが轟く一帯を過ぎて、瑞穂町の街中へ入ってやっとこさ心底ほっとした。この街はいつ来てもほっとする。高い建物がないせいだろうか、樹木が多いせいだろうか。

 箱根ヶ崎駅前のベンチで休憩する。片端に座っている老人は、こちらを振り向こうともせず、まるで彫刻のように微塵も動かない。目はじっと前を見ているようだが、何を見ているのか、焦点もなく目に写っているのは春霞だけなのではあるまいか。

 なんだかこちらが居ずらくなって、そそくさと立ち上がり、町はずれの狭山ヶ池に向かうことにした。振り返って線路の向こうを見ると、駅裏側に広大な住宅地を整備中なのだが、果たして住み着く住民がいるのだろうか、と余計な心配などしてみる。

 

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 狭山ヶ池は、この辺りの湧水を集め、それを残堀川に流し込んでいる。しかし周辺が住宅地化して湧水は枯れ、乏しい水で残堀川にはいつも水がないのだが、今日はざばざばと音がするくらい流れていた。

 池の周りの八重桜が咲き、爺様が一人二人釣り糸を垂れ、幼児とママが滑り台で遊ぶ。噴水の向こうの若葉がことのほか美しく目に入る。長閑を絵にするとしたら、こんな按排ではあるまいか、と思う。

 小学生の男の子ふたり、東屋のテーブルにノートや本を広げ、勉強してるらしい。少し離れた石垣に腰を下ろし、靴と靴下を脱ぎ、すっかり寛いで握り飯を食う。風がさわさわと吹き、名残の桜がちらちらと舞う。

 

 

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 狭山ヶ池を出て、丘陵の下に来たら「さやま花多来里(かたくり)の郷」という看板が目に飛び込んできた。入ってみると狭山丘陵の北側斜面がカタクリの群生地になっている。以前はこの山の持ち主が一人で保全していたというが、現在は町が公園として整備しているらしい。だからなのか、以前来たときは目につかなかった。

 もはやカタクリの時節でもあるまいと思いつつ、斜面を歩いてみる。ところがぎっちょん! まだ咲いていた、しかも数多く。カタクリにもいろんな種類があるのだろうか、花が小さいように思える。小さいが可憐でもある。

 一組のご夫婦がテラスの方へ歩いてきて、私疲れたわここで待ってる、と奥さんがいいつつも、二人仲良く斜面の方へ消えていった。へんてこりんな爺いが居るから、とっさに、こりゃあヤバイ、と思ったのかもしれないなあ。

 

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 瑞穂町の外側に広がる畑の中の細道を北に向かってぶらぶら歩く。振り返れば若草色の狭山丘陵が明るい陽に照って、ふわりと吹く風はまぎれもなく皐月の風だと思わされる。柔らかな陽ざしと、丘陵の緑を運んでくる風、もはや5月だと言ってもいい。

 道端の背の伸びた草、たんぽぽ、シャガの花、紫蘭の蕾、八重桜、花水木、春霞に薄青くかすむ山、そして陽ざし、風。そんなものに包まれるようにして、あてどなく目的なく時間制限なく、ただ歩くのは実に気分がいい。

 

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 ただ、さっきから左足首が痛い。国道16号バイパスに突き当たったあたりで、足首のサポーターを毟り取ってバッグに放り込んだ。少し楽になったような気がする。16号を越えると埼玉県との県境で、低い丘陵となっている。

 車の通らない、なだらかな登りの細道を奥へと入る。バイパス沿いは商店だが、奥へ入ると産業廃棄物処理場、セメント工場、運送会社の倉庫など荒くれた工場地帯になっていた。前方にゴルフ場があるため細道は行止まって、仕方なく車の街道に出る。

 そして間もなく県境となり、急な登りになり、都側には立派な歩道があったが、県側に入るとすっと消えてしい、大型トラックが土煙とともに来襲する。ようやくゴルフ場を突っ切って、ほうほうの体で脇道に逃げ込んだ。ゴルフ場の雑木の若葉が美しい。

 

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 ゴルフ場を過ぎ、圏央道を越えると丘陵の北斜面となり、一面の茶畑が広がる。夏がち~かづく、八十八夜あ~。。。季節がまだまだ先だから新芽は出ていないけれど、きれいに刈り込まれた畝が遠くまで波打っている。

 この光景を見て、またほっとするが、狭山茶の産地、とはいっても昔と比べれば茶畑はずいぶん減ってしまったのだろうな。毎朝駄コーヒーを飲むが、日本茶がいいと思うようになった。歳のせいならむ。まだ足首が痛い。これも歳のせいか?

 

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 八高線は歩いている直ぐ西側を通っているはず、本数が少ないから電車の姿は見えない。だが、ところどころに踏切のだんだら模様が見えている。この先の金子駅から帰ろうと思う。足首をこれ以上痛めてしまって、歩けなくなることを最も怖れる。

 ぶらぶら歩きを「イノチ!」と思い込んでいるので、そうなったら目も当てられぬ。まあ、今までの経験上、その怖れは大げさだよ、と思ってはいるけれど、この際少しビビってる方が安心でないかい、と北海道弁で考える。

 

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 金子駅の駅舎は新しくなった(随分前のことだけれど)。以前の小屋のような駅舎のファンであり、いまの駅舎はモダンすぎると考える。周りの鄙びた風景とそぐわない、などとほざくのは他所者の身勝手、土地の人は聞く耳もたずダナ。

 マスクを取り出して電車に乗る。中はがらがらの空きすき、独りで一連の座席を占領出来る。午後3時の空が曇ってきた。うむ、吾輩が引き上げるとなれば、空だってそうそう晴れてばかりはいられないだろう。ちょうどいい、帰ろ。

 

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 今日の歩行は15㎞ぐらいだろうか。

 

 風呂の後の一杯がなんともいえぬ。

 

 ええ~~、本日できますものは、蕗の炊いたん、梅漬け

 

 焼酎をちびり、またちびり。

 

 

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