doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

八高線・再び(寄居~児玉)

八高線のみぎひだり
          足のむくまま気の向くままに
                        烏が泣いたら帰ろかな
 
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 八高線沿線のてくてく旅は、コロナのため中断していた。不要不急の、しかも爺いが、電車になんか乗るな(怒!)の情況だった。だが、このところ幾分か感染者数が落ち着いてきたように見受けられる。じゃによって、再開じゃ。
 
 
 
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 電車は通勤通学の人たちで思いのほか混んでいた。間隔を空けて座っている座席は埋まり、立っている人もいる。東京を離れるにしたがって空いてきて、高麗川ディーゼルに乗り継いでから、がら空きになった。畔や草地の緑に鮮やかな彼岸花が映えている。彼岸花の地域に来たなと思う。
 
 
 9時過ぎ寄居駅北口下車。駅の顔は至って地味~なのだが、すぐ前に目をむくようなモダンな町役場がどお~んと聳えている。寄居町で一番高い建物かも知れない。税金をだいぶつぎ込んだだろうな、とお察し申し上げたい。 

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 寄居は、秩父山地を流れてきた荒川が、広い関東平野に飛び出して扇状地を形成している(青梅に似てるな)。秩父往還が貫いていて、様々な物資の集散地でもあったのだろう、現在も八高線東武東上線秩父鉄道が集まっている街だ。 

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 さて、どこを歩こうか。ひとまず「円筒分水」へ行くことが決まっているだけ。この円筒分水は”やまみほ”さんのブログで知った。ほかはどこをどう歩くか全く考えちゃあいない、無計画主義の出たとこ歩き。
 
 
 どこへ向かえばよかんべ、としばし考えたが、なんも思い浮かばない。北側に見える丘陵に向かってとりあえず歩き始める。だんだん道が細くなり終いには人ん家の庭先のようなところを突っ切ったら国道254号に出た。車がわんわんしている。
 国道を歩くのは勘弁してくれと、突っ切って丘陵の麓の細道を東へ向かう。車が通らない長閑な道をてくてく、道端のどこにでも彼岸花が咲いている。草を刈り込んだ場所でも彼岸花は残されている。ほかの秋の花が混じって咲いて、花壇のような場所もある。道祖神が黙ってそれを見ている。

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 丘陵が関東平野に降りて、国道254号に近づいてきた。ここから国道に沿って細道は北へ行く。そこに八幡神社があった。旗竿を支える石門に「戦〇(手へんに走に似た字、まるで分らんチン)記念」「神意宣揚」などと凄い文字が彫り込んである。
 いいのか? 今どき。戦争礼賛じゃないのか? いやそれは考え過ぎか。八幡様は、まあ戦いの神様、だからこの文字は必ずしも戦争を鼓舞しているのじゃないかもしれない。そこんところは学がない悲しさ。ともあれ鳥居の奥には行かなかった。

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 細道は254号に沿ってはいるけれど付かず離れず、車もなくて気分よ~し。左手は丘陵の末端で、木々が茂るなかに古風で大きな屋敷が見える。寄居の街並みを外れ郊外に出たらしい。右手を走る254号線には量販店の屋根なども見えている。
 手前の草地に秋の花。草地一面が一つの花で埋め尽くされているのではないから、なんとなく風情がある。これがもし、びっしりと向日葵、などと来た日にゃあ、一見、おおッすげえ! とは思うかも知れないが1分で厭きると思う。

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  歩いている細道がときおりが254号線に接する場所がある。そこから関東平野方面を眺めてみるが、縹緲として取り付くしまもない。あんなところを歩いたら、大海原にぽつんと放り出されたみたいだろう。それは剣呑である。遭難してしまう。

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  右手の丘陵の麓に入って「円筒分水」が近づいてきた。民家の間の細道をくねくね曲がって分りずらい。グーグル氏の教えに従って進む。畑でお婆さんが草刈りをしていたので尋ねてみたら、すぐそこだで、と鎌で差し示した。
 「来んだよねえ、この前えも女の人うろうろして、聞いたら円筒探していただ」痩せて小さくて、顔の色が抜けるように白い上品なお婆さんだった。言う通りすぐに見つかったが、周りを囲んだフェンスに蔦草が絡まり、既に用済みの様子だ。

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 円筒分水を初めて見たのは、川崎溝の口の「久慈の円筒分水」で「二ケ領用水」見学の時だった。川の流れに分水堰を作る場合、普通の分水堰ではどうしても不平等になるので、大正時代にこの方法が考えられたのだという。
 中央の円筒から水を噴出させて周りに平等に流し、それを外側の円周比によって分配する。この方法は特に水争いが多い地域に使われたという。
 
 久慈の円筒分水説明図

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  ここ寄居の円筒分水も、中へ入れないからよくわからないけれど、3方面に分割しているようだ。もとより稲刈りの時期だから水は流れてはいない。ちょろちょろと漏れ出ているだけだ。この円筒分水を知ったのは”やまみほ”さんブログによる。
 水の取り入れ口は、どうやら向こう側の四角のコンクリートの構造物からのようだ。”やまみほ”さんブログによれば、その大元は湧き水を集めた円良田湖だという。そこから2.3㎞、トンネルでここまで導水されている由。

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やまみほさんブログ

”やまみほ”さんは、寄居の住人にして、「おきらく女子登山隊」の隊長であり、ブログの印象によれば、底抜けに明るく、面倒見のいいリーダータイプ。一面なににでも好奇心をもって探求心旺盛、6月ごろのコロナ過では山に出かけられず、送電線鉄塔探索、農業用水路探索、円筒分水、古城跡研究に日を送った、という人。

 

  

  円筒分水堰下の田んぼの畔で休憩・昼飯。”やまみほ”さんが分水された流れを追いかけた用水路らしきものが見えるが、草に埋もれている。薄日が差してきて、この時だけ晴れた。長閑な秋の陽が温かく照っている。

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  目の前で稲刈りをしている。ぼ~っとそれを眺める。あの小さな機械で、刈取、脱穀、袋詰、稲藁処分まで一気にやってしまうらしい。すんげえ、優れものだ! 農業機械は知らぬ間に進歩しているらしい。しかし休耕田の草むらも多いけれど。

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 さてこれからどこを歩こうかと思案する。やはり八高線の旅だから、線路のある辺りへ出てみようかと思い、国道254号線を突っ切って、民家が散在する道に入る。刈入が終わった田んぼでカカシが揺れる。これは風船カカシかあ?

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 傍に奥さんのカカシがうずくまっている。「ああ、草臥れた。もう刈入済んだで、絶対に動かんけんね。お前さん、なんだってまだ揺れているだね、もう終わっただよ、ほんとに愚図だねえ。後のこたあ、カラスに任せればええんでねえだか」

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  県道に出たら諏訪神社があった。八高線高麗川~寄居までは前進する選択肢が2,3個にかぎられていたので、まあおおよその方向を決めて気ままに歩けた。が、だだっ広い関東平野に曲がりなりにも出た以上、なに構わず好きな方へ歩くという具合にはいかない。境内でこれから先の立ち寄りをグーグルする。どうせ初めてのところだからどこだっていい。ただ車の少ない静かな道がいい。

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 用土駅入口を右手にみて県道を歩く。県道だから車が少し走っているけれど、歩道が広く、民家が少ないのでのんびりと行く。美里町というところに入った。どんな街だろうかと思う。見たところ広い野にパラパラと民家が散在するいい街らしい。

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  しばらく行くと丘陵の裾に普門寺の石柱が見えた。ここらでちょっくら休むかと入ってみた。参道に老杉が立ち並んで古格な雰囲気がある。石の上に座ってしばし休む。森厳として時間が止まったようだ。古い仏さまがずらりと並んでいる。

 石仏の文字を読んでみようかと思ったが、すり減り苔むしていて、とても読めそうもない。諦めた。どだい鰻がのたくった如き文字は読めたもんじゃない。なぜ楷書で書かんのじゃ(怒!)。書く速さの都合もあるからどうしても、のたくる。

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  中野という交差点の付近から左の細道に入る。その細道をくねくね曲がりながらすたこら行くと、なんと! 溜池のほとりに桜が! 10月桜は方々にあるが、こんな大きな花びらは見たことがない。見事だ。
 緑の葉っぱも芽生えているので山桜かな、と思う。それにしては花びらが大きいしその枚数も多い。桜だと思い決めて疑っていないが、もしかしてもしかして、桜じゃないかも知れない。それだったら黙って穴に入りたい。

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  ここも溜池だが、地図を見ればこの辺りは溜池が大変多い。なぜ? と考えてみる。関東平野ローム層、雨が降っても川にはならない(と思う)。ここに田んぼを作るためには、森に降った雨が湧き出すのを溜めて置くしかない。
 それでなければ、荒川や利根川から水を引いてくるしかない。明治以前の昔、大河に堰を作って水を引く、というのがどんなにエライことか、よくわかる(ような気がする)。この近辺の水利は、ちなみに下図を見ると、

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① 円良田湖(用土円筒分水堰)・・・昭和29年造成
② 利根川本庄市・用水路)・・・・昭和5年
③ 荒川(玉淀・用水路)・・・・・・昭和39年〃
④ 荒川(六堰・用水路)・・・・・・平成15年〃
となっていて、いずれも近代の造成となっている。
だから、方々に溜池を作って水をためにゃならん(と、素人は考える)。
 
 
 
  さて、ちょっと寄り道したが、歩きに戻ろう。
 近くに「美里町・遺跡の森館」というのがあるから、ちょっくら展示物でも覗いてみっか、と思う。行ってみるとエライ豪勢な建物だが、周りに誰もいない。
 中へ入ってみたら、奥から喉マスクのおじさんが出てきて「町民以外には見せないんだも~ん」と言う。展示物はおおよそ想像できる。やむを得なければ即ち仕方がない。コミュニティセンターの庭で、広いグランドを眺めながらベンチで休む。

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  次はちょっと離れたところに「魔訶池」というのがある。摩訶不思議な幽霊が柳の下から出るのかナ? 散在する民家の間の細道をくねくね辿っていく。どこかから金木犀の香りが漂ってきた。いずこより風香り来て金木犀
 
 
 県道を突っ切るとすぐ砂利の道になった。右手に果てしなく黄金の稲穂が広がる。左手は溜池の土手。淋しい道を一人ぽつねんと歩いている。砂利を踏む自分の足音に思わず振り返った。うら寂し稲穂を渡る風の音

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  魔訶池が見えてきた。水面を浮き草が一面に覆っている。一瞬泥が浮いているかに見えたが、びっしり繁茂した浮草だった。名前は勿論知らない。道っぱたの草さえ知らないのだから、浮草なんて知るびょうもなし。無学は悲し。

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  その先にも池があったが、こちらは浮草なし。水が澄んでいる。ゴルフの練習場があって、誰もいないが、どうやらこの池へ打ちっぱなしらしい。ボールはどうやって拾い出すのだろう、と余計な心配をする。柳の下にも幽霊はいなかった。

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  すぐ近くに「広木・大町古墳群」との表示がある。田んぼの細道を辿っていくと、稲穂の中に小さな、可愛らしいような草原がこんもりと盛り上げっていた。これが古墳!? というんだから古墳なんだろうな。
 説明板が立っていて、発掘調査で円墳、方墳、前方後円墳98基を確認。埴輪、直刀、馬具、勾玉などの遺物出土。築造年代は6~7世紀、とある。はは~、先の「遺跡の森館」にはこれらが展示されているのだな。埼玉県は古墳多し。 

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 国道254に出た。結局何のことはない、この国道につかず離れず歩いてきたのだなあ。 すぐ先に小山川が流れている。その土手は「こだま千本桜」という名所、歩いてみるべし。花はないけれど葉っぱぐらいはあるだろう。
 
 これはすごい! 川の土手に延々3㎞ぐらいに亘っての桜並木だ。それも両岸に並んでいる。葉が落ちて、灰褐色の枝先がもわもわ盛り上がっている。これが一斉に咲いたら、どういう景観が出現するのだろうか。

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  土手道を歩く。頭上を覆う枝で道が薄暗い。近くの山が藍色に霞んでいる。その向こうに、お椀を伏せたようなこんもりした山が二つ、これは水色に霞んでいる。群馬の山だろうか。秋の日の夕暮れ迫るひととき。 

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  一つ上流の橋まで歩き、そこから児玉の街へ入る。郊外の真新しい住宅地を抜けて、狭い道が入り組んだ中心部に行く。おおきな古い家が空き家になって、今まさに朽ちようとしている。この家にどんな栄枯盛衰があったのだろう。

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 街の中心部に「塙保己一記念館」がある。ん! 塙保己一?? 
 本庄市のwebサイトから引用しちゃおう。  
 盲目の国学者塙保己一は、江戸時代の中頃の延享3年(1746年)に武蔵国児玉郡保木野村(本庄市児玉町保木野)に生まれました。
 7歳の時に病気のために失明し、15歳になって江戸に出て当道座(盲人の組織)に入り、検校雨富須賀一に弟子入りしました。保己一は当道座での修業を積み苦労を重ねて立身し、晩年には当道座の最高位である総検校に昇進しました。
 保己一は国学者としても著名であり、「群書類従」や「続群書類従」の編さん、さらには和学講談所の設立及び運営、当道座の改革など多大な功績を残しています。中でも群書類従の編さんは41年を費やした大事業であり、正編666冊、続編1185冊は、現在、日本の文学・歴史等を研究する上で欠くことのできない重要な資料となっています。
 
  記念館に入ってみたが、どうせこれは理解の遠く及ばざるところ、トイレだけ拝借し、はい、さよなら、また来ます(来ねえな、たぶん)。

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 近くの「雉岡城址」へ。正面に土塁が見え、それがよく手入れされていて美しい。土塁の上には葉を落とした桜が寂しそうに立っていた。土塁に登って先っぽまで行ってみる。眼下に児玉の家並みひろがる。

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 説明板の記載を要約すれば、当初は山内上杉が築城し、のち後北条に敗れて鉢形城支城となって拡張整備されたが、秀吉の小田原攻めに際し前田利家によって落城。家康の関東入府で松平家清が領主となったものの、転封により慶長六年(1601)廃城となった。
 なお、城址の面影を残すものは、この土塁を含む1/3ほどで、あとの2/3は中学校、高等学校の敷地として活用されている由。

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 土塁の突端に座って、しばしぼう~~っとした。彼方の山端の雲が切れて薄い夕空が見える。時刻は4時ちょっと前、そろそろ帰ることを考えなければ、だが、もう少しここで、ぼう~っとしていたい。

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 ほんのりと薄い夕空をしばらく眺めていたが、せっかくここまで来たのだから蕎麦屋は如何にと検索。どこも17時より、となっていて諦めた。駅への道を調べているとき、偶然に画面に児玉駅発車時刻が表示された。
 発車は4時15分、その後は4時40分台と5時10分台と。4時40分台のに乗ろうかな、それまでしばしぼう~っと。。。と思ってよくよく見たら、なぬっ!! 4時15分の次はすべて高崎行だ! 高麗川方面は4:15の次は5時40分ごろまで、無い!
 
 いま何時? 4時。駅まで何分? オラ知らね。わあ~~を! 急げ、走れ、転げろ! 急ぐ、走る、止まる、はあはあ、歩く、走る、止まる、はあはあ。おばさん、駅まで何分? 何分たってすぐだがな。
 
。。。間に合った。5分前。はあはあぜいぜい。

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 一日かかって歩いた距離を、あろうことかたった15分。
 車窓はだんだん薄墨色に暮れていく。
 今日は一日爽やかな秋晴れ予報だったが、ぎっちょん! ほぼ一日曇り空。
 しかし、薄曇りの空もまた良し、そこはかとない風情あり。
 ここまで約30000歩(×0.6=18㎞) 

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 瑞穂駅に近づいたころ、車窓の空が茜に燃え上がった。
 ぼうっと見ていて、はっ! カメラ! と思ったときは瑞穂駅到着。
 
 ゲッ 長げえ! 飛んでもねえ! 誰も読まんナ、じょ~と~~。