八高線・再び(児玉~高崎)

 

 

八高線のみぎひだり
          足のむくまま気の向くままに 
                        烏が泣いたら帰ろかな
 
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 八高線はとろとろ走る。ゆえに時間がかかる。しからば車内人間観察。
 ハイキングに行くらしいおっさんが二人、全身これ「モンベル」で固めている。ザック、ウインドヤッケ、ズボン、靴、ぜ~~んぶ「モンベル」。金持ちなんだなあ。でも、ちょっと嫌味な感じもしないでもないか。
 また、初老の男。寝ぐせの頭、垢じみ汚れたよれよれジャンバー、草臥れた靴。駅に着くたび立ち上がってうろうろ。レジのシートになにやら書き込む。むむ! 八高線愛好者か!?・・・夢中になることあらば、服装などどうでもよか!
 
 

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  というわけで9時半ごろ、前回折り返した児玉駅到着。雲一つなき秋天の清々しさ。けど前回の失敗が蘇る。ひーひー言いながらやっとこさ、この駅に駆け込んだっけ、暮れなずんでいくこの駅前通りを必死こいて走ったんだよなあ。 

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 児玉の中心街を歩いてみる。お店もあまりなくてなんだか雑然とした印象。中世の武蔵七党の一つ、児玉党の本拠地だったのでは? と思っていたが、世移り、いささか寂れつつ、しかし落着いた静かな街へと変貌途中なんだろうか。
 それはともあれ、ここから高崎駅まで、地図を一見した限りだいぶ距離がありそうだ。もとよりどの道を歩くか決まっていないのだから距離は測りようがない。高崎駅までたどり着けるのか、はたまた途中でヘタって、次回また八高線に乗るのか、この時点ではそんな思いが胸を占める。f:id:donitia:20201028102753j:plain
 
 
  児玉の街中を抜け、左の高みに登っていく八高線をくぐって関東平野の北辺に出た。畑や田んぼが無限際に広がる中の細道に入る。近くに見える山並みの稜線が幾重にも重なってまさに翠巒、その緑の山肌が、目を見張るように美しい。 

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 はるか遠くには淡い水色に霞む山並みが、前方と右左に連なっている。後方、つまり南側だけは山が見えない。北正面に連なるのは群馬の山々だろうか。山の名を知らぬから、どれが誰だかすこしも解らないが、美しい。

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 西側奥にどっしりと構えた、ひときわ大きな山容が見える。頂上から煙を吐いているように見受けられるが、浅間山と違うんだろうか。誰かに聞いてみたいが、こんな田んぼ道を歩いている人はいない。

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 山並みの美しさに心動かされたのでパノラマにしてみた。が・・・迫力がねえ! しかし、野の広がりと清々しい空気感が、少し感じられるかもしれない。写真や画像で見るのと、実際その場所に身を置いて感じるものは大いに違うと実感。

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 この付近には、神流川を渡る橋が国道254号しか無い。嫌でもの国道に行く。国道に近づくにつれ少しづつ集落の家並みに入る。秋の名残、鮮やかな色のコスモスが風に揺れ、午前中の若い陽差しを受けて輝いているように見える。

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 神流川を渡る。長い橋の中ほどまでは雑木が生い茂り、一向に流れが見えない。だいぶ歩いてようやく川が見えた。上流のダムのせいか、水は笹濁りしている。はるか遠方の山すそに白く光るのは、高崎あたりの市街地だろうか。遠いなあ!

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 橋を渡り切った土手で握り飯1個のエネルギー補給。素足になって足を休める。そして藤岡市に入った。この街の中心部を昔歩いたことがある。その時の印象は、暗く淋しい街並みだったように記憶しているが。
 しかしいま歩いてみると印象がだいぶ違う。道路は拡幅されたようだし、商店街が見違えるようにきれいになって、発展途上の勢いが感じられる。向こうから東南アジア人らしい若者が4,5人、はしゃぎながらすれ違った。

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  群馬藤岡駅の前あたりから一本西側の道にずれる。両側に量販店などが並び、市街地に劣らずにぎやかな通りだ。この道をなに構わず真っ直ぐに行けば、烏川を渡って高崎市に入るはずだ。とりあえずは、この道筋の「県立博物館」を目指す。
 しかし真っ直ぐな道は遠い。そして疲れる。行けども行けどもちっとも景色が変わらない。車の通行が多いし、休むべき寺社も見当たらない。それに高崎駅までたどり着けるかどうか、それが気になって休むどころの騒ぎじゃない気分。

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  ほとほと嫌気がさして、通り沿いの田んぼのあぜ道で立ったまま少し休む。あぜの草にホトケノザが早々と咲いていた。可憐な小さい赤い花を見て、なんだかほっと気分が和む。まさか花に癒された、なんてことがあるのか?

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  足が痛くなってきたけれど、歩かなければどこにも辿り着けない。何も考えないようにして俯いてただ足を運ぶ。車も街並みも目に入らない。そしてやっとのこと、高速道と新幹線が交わる地点に辿り着いた。
 車が行きかうガードの上に高速道が走り、その上を新幹線の白い壁が跨いでいる。ようやく近代的な構造物を目にしたなあ! 新幹線、高速道、なんだか都会に来てしまったような気がする。ま、どちらも縁がないけど。

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  しかしここからでも県立博物館は、まだ大分遠い。忍の一字、ただただ足を運ぶ。幸いなことにガードを抜けたら、道が細くなって次第に車が減り、田園の中のまばらな住宅地、という感じになってきた。
 黙々と(独りだから終始黙々だけれど)足を運ぶうちに、道路は高みに上り、高崎線の上をまたぐ。それから待望の烏川を越えた。なんだか希望が見えてきた。ついに高崎市に入った。ああ、藤岡が長かったあ!!

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  ようやく県立博物館到着! 芝生の公園、県立博物館と美術館、そして森。「群馬の森」なる愛称。少し休んで息を整える。芝生に座って靴を脱ぐと、両足の裏側に大きな水膨れ、血マメの前駆体、触るとジンジン痛む。

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 博物館に入ってみた。綿貫山古墳から発掘された埴輪が主題の展示がある。これらは最近国宝として認定された由。その一部、青年男女が向かい合って座りなにやら儀式執行中。男の頭は見慣れない帽子、韓国人(からくにびと)か?
 正面の3体は胸の前で手を合わせ、祈りのポーズかな。3体とも少女に見えてしまう。巫女さんだろうか。古代は、何はともあれ「祈り」が重要だったんだろう。そういえば、祈りなんてことは、すっかり忘れてしもうたなあ。

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 おもしろげな埴輪もある。左の人:「わしゃ、古代の不良じゃけえ、なんか文句あんのか、あ~ん、おんどりゃ、舐めたら承知せんぞ、ごおらあ!」
 左の馬:「へえ、なんか用でおまっか? あてに用頼んだかてあきまへんでえ、見てみなはれ、びよ~んとした馬鹿ずらしてまっしゃろが」

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  ほんの短時間見学するつもりが、表に出たら1時間も経っていた。県立だけに他の展示も充実していて、思わぬ時間が経過した。すでに3時半、陽差しもがっくりと傾いて、樹木の陰が長く尾を引いている。
 この時点で歩行距離は16㎞、自分の一日分としてはもう限界の距離だ。もう打ち切って帰るべきなのだ。ここから高崎駅まで少なくても4,5㎞はあるはず、そんな距離をこの足で行けるんだろうか?
 
 
 ともかくここを出なければ話にも何にもならない。地図では、この博物館施設の脇に用水路が流れていて、それを上流へと辿っていくと、高崎駅近くの円筒分水へと繋がるらしい。それが三角形の一辺の道だから、一番短い。
 用水路はすぐに見つかってその岸辺の道を辿った。右手に田んぼが広がり、夕日が照らしているが、樹木の陰は黒々と沈んで夕闇の訪れを見せている。足が痛い。
 
 
 しばらく行くと散歩中のご夫婦に出会った。高崎駅まで何キロぐらいか聞くと、「7、8キロだね!」・・・ごおぉぉ~ん!! そんなにあるのか! そんなに歩かねばならないのか! 思わず膝から力が抜けた。
 気の毒に思ったのか、「一番近い駅は倉賀野」と教えてくれた。倉賀野じゃあ八高線じゃなく八倉線になってしまう。ここまで来たら、なんとしても高崎駅だ。最後の最後の詰めだゾ、歩かねばどこにもたどり着けないが歩けばいずれ着く。

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  用水路は蛇行して曲がりくねる。煩わしいので脇を通っていた、用水路と付かず離れずらしい細道を歩く。その細道が量販店が並んだ地域に入り、そこから大きく立派な道路になった。コンビニで甘いお菓子を買いエネルギーを補給する。
 西の空が赤く色付いてもう日が沈む。歩いても歩いても距離が縮まらないように思える。暗くなって商店の明かりが灯り、一人ぽつねんと歩いているのは、なにがしか心細く思える。足が痛む。
 
 
 最近、カナダの大地を歩き通した女性のブログを読んだ。太平洋岸から大西洋岸まで6000㎞。極寒のロッキーやグリズリーの森で毎日テント。一日40~50kmも歩き続けたらしい。それを想えば、比べるのは不遜だが、これしきの事は屁の支えでさえない。
 そう考えると少し力が湧く。とにかく黙って足だけ運べ、血マメが痛いたって足が腐るわけでもあるまい。苦しいけれど、それが時間経った時に懐かしく思い出されてくるじゃないか。歩け、とにかく歩け、ぐずぐず言うな!
 
 
そうして高崎駅到着。5:45 距離:(3900歩×0.6=23㎞)小さくバンザイ!

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 高崎駅八高線は3番線。が、見当たらない。4番、5番があるのに3番がない。スマホ中の女子高校生に聞いたら、なんとコンコースまで上がってくれた。そして探す。そしたら反対側の下り口に小さな紙片に「3番線」とあるのを見つけた。4番線と5番線のホームの先っぽを切り欠いて、短い編成の八高線のホーム。
 高崎の娘さんは親切でよか気持ちの持ち主、ありがとう。疲れた心があったかくなった。車内で寝ようとしたが眠れず。どこか分らないが急ブレーキ、ごつんと衝撃、「ただいま鹿と衝突しました、点検します」で20遅れ。帰宅は8時半。
 
 
ひとまず終わったなあ。