doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

ちょっくら秩父へ

 晩秋の陽が柔らかく照る一日、ひょいっと秩父を歩こうと思った。

 無信心の罰当たりだから、観音堂巡りをする気は全然ない。

 ただぶらぶらと歩くだけだ。

 

f:id:donitia:20201107100917j:plain

 

 

 秩父へは電車でも車でも、おおよそ2時間というところだが、今回は車。青梅を過ぎ、名栗の恐ろしく細いくねくねの山伏峠を越えて秩父市役所到着、9時半ごろ。

 正面にどかんと武甲山、いささか逆光で、峩々たる石灰の削り跡は定かでないけれど、こうしてみると確かに大きい。市役所の観光課に立ち寄って地図を所望するも、あまり詳しい地図は置いてないとの事、止むを得ざればスマホ地図に頼るか。

f:id:donitia:20201107104722j:plain

 

 

 西武秩父駅付属の、華美な色彩溢れるお土産屋の前を横切ってから、線路を越えて北側の路地を荒川の上流方面に向かって歩く。秩父線秩父駅付近はよく歩くのだが、こちら方面は歩いたことがない。新鮮に目に映るのだけれど、人通りはほとんどない。 

f:id:donitia:20201107104755j:plain

f:id:donitia:20201107105203j:plain

 

 

 ふと脇を見ると、日当たりのいい細い道が荒川の岸辺の方に続いている。コスモスが咲いて、残菊が陽を浴びている。そして正面になだらかな勾配のお寺の屋根らしきものが見える。思わず吸い寄せられるように、その細道へ入ってしまった。

 正面のお寺は禅宗の寺院、「金仙寺」と看板が出ている。境内に入ると、住職の奥さんらしき人が「こんにちわ」と笑顔で挨拶して本堂の裏へ消えていった。本堂の前には、石造りの布袋様が2体、「がっははは~」とぶっと飛ばすように笑っている。毎日こんなに豪快に笑っていたいなあ。 

f:id:donitia:20201107112347j:plain

f:id:donitia:20201107112426j:plain f:id:donitia:20201107112502j:plain

 

 

  寺を出て荒川の岸辺に沿って歩いてみる。砂利の川原に挟まれた細い流れが見える。向こう岸の山に紅葉している木々が陽に煌めいている。しかしモミジの赤や黄色が無いなあ。モミジやカエデはこれからだろうか。

f:id:donitia:20201107114805j:plain

 

 

 しばらく行くと、たおやかな赤い吊り橋が見えてきた。モミジの赤がないからこの橋のアーチがその代わりだ、と思うことにする。紅葉は赤と黄と緑が織りなす美しさだが、その条件ぴたりの場所、時期となるとなかなか難しい。無いものはねだらない。

f:id:donitia:20201107115516j:plain


 

  遠くの山の稜線が青空にきっかりと食い込んで、その対比が美しい。手前の木は、楓にしては葉っぱが大きいし、プラタナスしては小さいように思える。草も知らなきゃ、木も知らぬう~。モミジハフウというのがグーグルに引っかかったが果たして?  

f:id:donitia:20201107141742j:plain

 

 

  畑の中に続く砂利道となった。向こうからハイキング姿のおばさんが二人歩いてくる。札所巡りだろうか。関心がないからどこに観音堂があるのか知らないが、ずいぶん離れた場所にもぽつんぽつんとあるようだから、巡って歩くのは大変だろうな。 

  荒川沿いの道が尽きたから、今度は国道を越えて山側の道に行ってみようと思う。国道近くに「影森中学校」があった。影森って聞いたことがあるなあ。国道を突っ切って更に秩父鉄道を渡って、山麓の細道に入る。

 

 

 人家の無い山道に入ったと思ったら、線路をまたぐ小さな橋の上に出た。紅葉した雑木が線路の上に被さりトンネルのように見える。その木の下を行くと、もう一度線路を越え、どこやらくにゃくにゃ曲がって国道に出た。 

f:id:donitia:20201107144407j:plain

f:id:donitia:20201107144445j:plain

 

 

 どこを歩いているのかよく分らないが、国道は車ブンブンで嫌だからすぐまた山側の道を取る。しばらく行くと「橋立鍾乳洞」の看板が見えた。入っていくと川岸に向かってどんどん下り、また昇る。この辺は山と峡谷が複雑に入り組んで分かりにくい。

 

 

 「橋立鍾乳洞」の石段を上る。広場に鍾乳洞入り口の小屋があって、他に蕎麦屋、カフェ、観音堂、などがある。何人か観光客もいて、鍾乳洞に入るらしい。しかし、洞内撮影禁止とあるから、止めた。昔、日原鍾乳洞でがっかり首を垂れた、それを思い起こす。

 観音堂の裏手に絶壁がそそり立っている。真っ青な空を背景に木々の紅葉が輝いている。こちらの方が見ごたえがある。観音堂馬頭観音を祭ってあるらしいが、崖下の樹木の陰になって黒い影しか写らない。

f:id:donitia:20201107150203j:plain f:id:donitia:20201107150404j:plain

 

f:id:donitia:20201107150517j:plain

 

 

 絶壁下の石ころに腰を下ろして、ここで昼飯。目の前のモミジがちょうどよい按排に色づいている。モミジの後ろのイチョウがまたいい。何人かの人が蕎麦屋やカフェに入っていった。この人たちは普通の服装なので、車で札所巡りに来たのだろうと思う。

f:id:donitia:20201107151048j:plain

f:id:donitia:20201107151120j:plain



 
 その先の山道を行ったら、通行止。やむを得ず戻って、今度は谷間深く降りて行く。ほんとに分かりづらい。降りたところで、ハイキング姿のおばさん二人に出会った。ひとりが「こんにちわ」というので「あ、ハイ、こんにちわ」と思わず慌てた。

 

 

 浦山川に架かる橋の近く、浦山ダムの堰堤が民家のすぐ裏に覆いかぶさるように迫っている。見ているとなんだかうそ寒くなる風景だ。もしあのダムが崩れたら、と思う。そんなことになれば秩父中が水没するだろうけれど。

f:id:donitia:20201107154004j:plain

 

 

 道が国道と合流するすぐ手前に「長泉院」というお寺がある。ここは何度か来たことがある。静かで品があって、他の観音堂と一味違うように思う。参道を進むと左手に枯山水を模した庭がある。ここで気持ちが、ずんと落ち着いてくるから不思議だ。

 本堂の敷居の上に3体の人形があった。手作りのようだけれど誰が作ったのだろう。3人で踊りを踊っているように見える。花笠踊りのようにも見えるが、また違うようでもある。これもまた、モノを知らない悲しさよ。

f:id:donitia:20201107155839j:plain

f:id:donitia:20201107155901j:plain f:id:donitia:20201107160214j:plain

 


 ここの紅葉は色付きがよかった。モミジ、カエデ、ドウダンツツジなど。逆光で見ると、葉っぱが陽ざしに透けて柔らかい色合いになる。が、それを写真で残そうとするとちょっと腕が要る。到底うまくいかないネ。

f:id:donitia:20201107161024j:plain

f:id:donitia:20201107161056j:plain f:id:donitia:20201107161125j:plain




 長泉院のすぐ先に西に向かう細道がある。たしかこの道は以前歩いたことがあり、しかもお気に入りだ。入っていくと野が開けて、広がる畑の中に民家がぽつんぽつん。なんと、咲き残りのアジサイ、だよなあれは。目の錯覚じゃないよなあ。

f:id:donitia:20201107173355j:plain

f:id:donitia:20201107173428j:plain

 

 

 民家の間を緩くカーブして続く道、午後の陽ざしが降り注ぎ、長閑だなあ。古びてはいるけれど、ゆかしい造りの神社。境内に作られた土俵、今でも相撲大会が行われるんだろうか。たぶん土地の人々に大事に守られてきた社なんだろうナ。

f:id:donitia:20201107174225j:plain

f:id:donitia:20201107174259j:plain

 

 

 道端のカエデ。そして派手さはないけれど、しっとりと落ち着いた色合いを見せる山々。周りが昔と変わらずに、ゆったりとしていて、それはモノ言わないけれど静かに身を包んでくれているように感じてしまう。

f:id:donitia:20201107175005j:plain

f:id:donitia:20201107175032j:plain

 

 

 そして道はぐいっと曲がって国道に合流。さて帰りを考えなくてはならない。名栗のあの恐ろしいほど細く曲がりくねった山伏峠を、真っ暗になって運転するのはあまり気持ちが良くない。夕暮れ迫りくる頃には通り抜けたい。(そうです、チキンです、ハイ)

 となれば、市役所に4時ころまでには戻りたい。するとこの辺りで秩父鉄道に乗らなくてはならないらしく思われる。近くの駅は武州日野駅、立ち寄ってみたら、若い女の子が独り、駅を守っていた。

 

 

 今度の電車は、この駅発が15:45だと言う。そして秩父着がちょうど4時ころ。うまい、これに乗りたい、が、今まだ14:40分ころで時間が余り過ぎる。なら、次の白久駅まで歩いて、この電車に間に合うのか?

 白久駅の発車は15:37だという。白久駅まで鉄道距離で3㎞だというから、何とかなるかもしれない。駅員の女の子は、「でも道は上りだから」と不安げ。そして、なんとまさかの、パソコンで道のりの歩行時間を検索してくれたのだ。約40分だと。

 ありがとう、ご親切に! 今ちょうど14:45、何とかなる。なんとかする。そして国道を歩き始めた。1㎞先の「道の駅」通過が15時ちょっと前、国道を離れ、あと2㎞を30分で歩けば、どんぴしゃり。さあ、歩け歩け。陽が山の向こうに入って少し寒い。

 

 

f:id:donitia:20201107181644j:plain

 

 

 白久駅到着、15時25分頃。ここまでで16㎞。

 間に合った。おかげさまで間に合ったよ駅員さん!

 山伏峠もまだ真っ暗にならないうちに通過。お世話になりなした。