doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

立川崖線を辿って②

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 立川崖線を丁寧に辿ってみようという試み。その2回目。

 前回はモノレール柴崎体育館駅のところで終わった。今回はそこからスタート。そこまで徒歩でいってみたが、結構な距離を歩く羽目になった。なあに、今日も日が暮れた場所から帰ればいいだけのこと、構ったこっちゃない。

 

 前回目星をつけた、立川崖線は「これかな?」と思われる細道に来た。東に向かって左側が石積みの住宅地、右は平だから、あまり判然ではないが、「立川崖線の下」だろう。道路の交差する場所で左を見れば、それらしく上り坂になっている。

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 この道をづんづんと歩いていくと、突然足元から川が現れた。矢川に違いない。土地の人によれば、昔は立川高校の下あたりから流れ出していた、というからここまで暗渠になっていたのだろう。流れは向こうの道路下のトンネルに吸い込まれている。

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  その脇に住宅があって、その一角に「矢川弁財天」のお社がある。入っていくと、お参り以外はお断り、だとか鯉を見るだけはお断り、だとか、なんだかいろいろ書いてある。境内の突き当り、「木島キヨ霊人」と彫られたお婆さんの石碑が目に入った。

 脇に「矢川辯財天初代教主」と説明書きがある。う~む、ここに至って、はたと気付いた。このお社はどうやら個人のものらしい。このお婆さんが何やら教祖様であるらしい。個人で作ったにしては堂々とした立派な社。それに鯉もいた。

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  新興宗教の類はいささか苦手、どのような由来や経過かは知らないけれど、その辺りから人が出てきて説教などぶたれたら困惑する。急いで立ち去る。階段を上って崖線に登る道路を横断し矢川緑地公園に入る。

 

 人気のない公園は、湿地に葦の穂が寒々と茂るばかり。奥へ行くと矢川が向こうから流れていた。ここからも湧き水を集めたのか、水量も増え、流れは清冽そのもの。きれいなせせらぎに惹かれ、流れを辿ってみた。

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  公園の外に出たが、矢川の澄んだ流れに引き寄せられ、ついその後を追ってしまった。立川崖線の方は南武線を越えて矢川駅の方へ続いているのだが、立川崖線を離れて、ままよ、矢川を辿れるだけ辿ってみようかと思う。

 流れは住宅の裏を通り、小学校の脇を抜け、煉瓦畳の散歩道を従えて南へと向かう。果たして、どこへ行くのか、矢川に聞いてもらうしかない。一度も歩いたことがない道を辿っていくのは気分がいい。浮き浮きする。

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  矢川の脇の歩道がなくなると、滝乃川学園という門の前に出た。学園と言ってもそれらしい建物が何もなく、しもた屋風の木造家屋がいくつか見えるだけだ。なんだろうと思ったけれど、まさかづかづかと入るわけにはいかない。

 

 地図を見ると、近くに南養寺というお寺がある。立派な門を構えた奥に堂々とした伽藍が見える。入ってみると庭の紅葉がまだきれいだ。ちょうどお昼時刻、ぼお~~んとお坊さんが鐘を突いた。なむなむ、諸行無常

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 思いがけなくきれいな紅葉を見られて得した気分。そこいらの石にでも腰を下ろして、小一時間ほど、ぼ~っとしていたい。だけれど、本来行くべき道程を離れて、この先どうなるのか分らないので先を急ぐことにした。

 

 

 地図によれば、この近くに「くにたち郷土文化館」というのがあるから、ついでに立ち寄る。モダンな建物で、地下に展示室がある。お決まりの縄文土器、遺跡の地図などもあるが、崖線を説明したジオラマに目が引き付けられた。 

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 ジオラマはとても分かりやすく作られている。それによれば、この建物は青柳段丘の上にあり、直ぐ裏側に青柳崖線が走っている。そして北側には、わが立川崖線があり、更にその北側に国分寺崖線があり、三段構えに崖線が走っている。

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 大昔の多摩川が、最初に武蔵野段丘を流れ、流れが東南に変わって、次に立川段丘を流れ、更に東南に移って青柳段丘を流れ、その流れが府中あたりに沖積地を形成し、現在は更にその下を流れている。随分と好きかってな乱流だったのだなと思う。 

 そして、それぞれの流れによって崖線が形成され、多摩地方の崖線は3段階に下って、現在の多摩川が存在しているのがよくわかる。一番上が武蔵野段丘面を乗せる国分寺崖線、2段目が立川段丘を乗せる立川崖線、3段目が青柳段丘が乗る青柳崖線。 

 青柳崖線は、東側の谷保天神辺りで立川崖線にくっついている。ということはこの青柳崖線を辿っていけば、おのずと立川崖線に戻れる、ということ。なんも心配することはなか、ちゃ~んと戻れるようになっているバイ。

 

 

  企画展は、なんとまあ、滝乃川学園の歴史展示であった。それによれば、立教女学校教頭の石井亮一氏が、明治24年、震災孤児のために寄宿舎付き女学校を設立したのが始まりで、次第に知的障碍者教育に特化した、とある。

 現在、児童部30名、成人部80名、生活介護130名を受け入れ、共同生活の中で知的障害児の教育を行っている由。時間がなくて、さっと見ただけだが、昔も偉い人がいたのだなあ、と首を垂れる思いがした。

 

 

 さて、郷土文化館を出て、裏側の段丘を降りてみる。ついでに近くの「ママ下湧水」と「矢川おんだし」を見に行った。「ママ下湧水」は青柳崖線下の湧水、枯れてしまっているかと思ったが、なんの、こんこんと澄んだ水が湧き出している。やれやれと思う。「矢川おんだし」は、滝乃川学園の敷地を通ってきた矢川が沖積地へ出てきた場所。

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 そしてこの沖積地に、矢川の水を利用して古くから農業(水田?)が営まれていたらしい。しかし江戸時代になると矢川の水だけでは不足し、多摩川から直接水を引く府中用水が(1693年ころ)に開削されたという。

 

 

 さて戻って、青柳崖線の下を歩く。崖線直下にはママした湧水と矢川の水が流れている。崖線は10mぐらいの高さだろうか、樹木が鬱蒼として、せせらぎには鴨が遊ぶ。畑の脇道の土を踏んで歩く。気分よかね~。

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   それから城山公園へ入る。ここの崖線の上には、中世豪族の館があったらしいけれど、今それを偲ぶよすがは何も無いらしい。崖線下が公園になっていて、古民家が移築保存されているほかは、雑木の林が残っているだけ。

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  公園から出ると、沖積平地になり辺りが開けてきた。田んぼの先に青柳崖線がくっきりと崖をなしている。東側に田んぼや畑が広がる。このあたりから先が府中用水が巡らされた耕地だったのだろう、けれど住宅が侵入している。

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 そして青柳崖線は、立川崖線に溶け込むようにして消失し、谷保天神の境内に着いた。拝殿の脇に小さな祠があり、その周りが池になっている。その池の底から湧き水が溢れてきて、一部は立川崖線下を流れ、一部は沖積平地へと離れていく。

 崖線の下は湧き水が多いのだけれど、近年は枯渇しているらしい。ママ下湧水やこの池のように滾々としているのは数少ない。台地の上が隙間なくコンクリートで覆われてしまったので、枯渇するのも当然と思うけれど、いかにも惜しいなあ。

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 「あんさん、今日はここまででっか。えらいご苦労さんおしたな、これに懲りずにまたきてんか、これから先も崖線辿りおしたら、おもろいもんもあるんと違いまっか」と牛がこっち向いて言いおった。

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 今日は矢川を辿って行ったら、思いかけずいろいろおもしろかった。

 時刻は3時、潮時だから帰ろう。歩行距離は15㎞。

 天神様だから、季節無視の梅の花(桜かなあ?)でも。

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