doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

府中漫歩

 

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 駅から南へ少し歩くと天満宮の森に突き当たる。

 今日は久しぶりの皐月晴れだが、空に薄い絹のような雲が広がっていて、この時期の鬼のような陽ざしを和らげてくれるだろう。湿った空気が淀んでいる森蔭の階段を下りていくと、境内に二人ばかりの人影がちらちら動いた。

 

 明るい境内に降りたら、目の前に鶏。真っ直ぐこっちへ向かてきて、ナンだてめえ、やんのかおらッ、てめえなんぞツッツキ倒して皮剥いちまうぞ、おらッ! とすごむ。やってみろ! 焼き鳥にして食っちまうぞ、といったら、少し怯んだ。

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 本殿脇から湧き出している泉の流れを辿ると、田んぼや畑が広がる眺めが開けた。ジャガイモ畑と水が張られた水田の向こうに煙が見え、その脇になにかごちゃごちゃした小屋のようなものが見える。

 地図で偶然目にした「くにたちはたけんぼ」は、たぶんあそこだろうと思って近づこうとしたが、道がない。仕方がないので田んぼの畔を伝っていってみると。 ちょっとした広場があって、その向こうに馬小屋が見える。

 馬小屋からやおら、おばさんとロバたかポニーだか、汚らしい小さい黒と白の二匹の馬が出てきた。「誰? どこから来た? あら、裏から来たのね、”はたけんぼ”のことを知りたいの、うちら別組織だから詳しいことはwebサイトをみてよ」 という。

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帰宅後このwebサイトを見た。その要約。 

NPO法人くにたち農園の会」は、「田んぼや畑を新しいアイディアで活用しよう」という考えのもと「くにたちはたけんぼ」を開園しました。以降、農園の管理運営、貸し農園や田んぼの体験、未就園児とその親を対象とした子育て、放課後の子ども達の居場所、リトルホースとふれあう会「くにたち馬飼舎」など、通年を通じて、四季折々で農体験が楽しめるさまざまなイベントやオープンデイを実施しています。

 田んぼの中の休耕田を利用して、若い人たちがなにやら活動しているらしい。今の若い人はwebを利用して、思いもつかないことを、実にさらりとやってのける。年寄りには及びもつかない、こうして時代は変わっていくんだなあ。

 

  

  それはそれとして、この地域は府中疎水により、田んぼや畑が広がっていたらしいが、今は住宅が蚕食してその広がりが見えない。天満宮からの湧水の流れも疎水の方に流れていき、ハケ下の小川は干上がってしまった。

  ハケの斜面の雑木林は、大波が崩れるような具合に葉が茂りあい、緑のベルトとなって続いている。この熱帯林のような緑の下を歩こうと思う。皐月の空から寒からず暑からずの、爽やかな風が吹いてきて大変に気持ちがよい。

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  細い道は、人ん家の裏側に続き、泥棒が侵入するようにして、こっそりと歩く。アジサイが咲いている。まだ咲き始めたばかりなのか、大輪の目が覚めるような花は少ない。これから成長してそのような花になるのだろうか。

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 右手の家並みが途切れ、開けて道路になったので空が明るい。流れのない小川が続いていて、それを中心に して水辺公園のように整備されている。木々の葉は猛々しいように茂り重なり、いま茂らせないでどうする! とざわついている。 

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 緑道へ入り、古戦場の碑を見る。新田の義貞君が 、鎌倉はもう駄目じゃ、ろくでもねえだで、ぶっ潰してくれるべえ、と言って群馬の奥の方から出張ってきた場所。そのころはここも一望河原だったんだろうなあ。

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 奥の方は水辺の美しい公園になっている。東屋のベンチで昼飯。若い母親が滑り台で幼児を遊ばせている。公園管理のボランティアらしき老人たちが、お疲れ様、じゃまたあとで、と帰っていく。老若どっちも長閑な風景。

 風が吹いている。木々の青葉がそよぎ、水面にさざ波が渡る。爽やかな風に吹かれていると、このままここに動かずにいてもいいような気がする。どこへ行っても何も用事がないのだから、どこへも行かないでいてもいい。

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 さらに奥へ進むと、浅い池があった。岸辺に、竿と魚籠を持った麦わら帽子の少年の像が池を見ていた。夏の日の思い出、朝から晩までちっとも飽きることなく、夢中で小魚を追い、泥にまみれた。あれぐらい何も考えず熱中した日々はほかにない。

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 昔の砂利運搬鉄道の、そのレールを取り払った緑道に突き当たった。自転車歩行者専用の細い道がまっすぐ北へ延びている。道脇にいろいろな花が咲いていて、見ながら歩くと楽しい。こんな時ほど花の名を知らぬことを悔やむ。

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 砂利運搬鉄道跡地の緑道は、街道を越え、線路をまたぎ、段丘に登り、もう一つ大きな道路を越えて、その鉄道を記念する公園で行止った。昔懐かしき駅の風景だが、利用しているのは近所のサラリーマンが昼飯タイムで。

 ベンチで若い男女が仲良く弁当を分け合っている。座っている隣のベンチに若い女の子が来て、サンドイッチをぱくつき、タバコを吸って帰っていった。人が入れ替わりつつ、みな弁当を食い、一服休憩して帰ってゆく。

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  府中本町駅へ行く。駅前の広場は古代の国司の館があった場所だという。府中の国府の裏側になる。広場がきれいに整備され、国司の館の建物跡に列柱が立ち並び、ジオラマのような模型が展示されている。しかし今は閉鎖中。

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 府中本町駅は、1階の改札口が裏から見ると2階になる。段丘の上と下、ちょうど崖線の位置に建っているのだ。小公園の大きな欅の下で休憩。乳母車を引いて幼子をよちよち歩かせながら通ってゆく。婆さんがゆっくりゆっくりと歩いていく。風が吹いている。

 

 

 競馬場の近くの古いお寺に入る。朱色の門の下でまた休憩する。森閑として誰もいない。境内のあちこちにあった石仏や石塔を一か所に集めて段々を作ってあった。その脇にいやに赤い花が咲いて、風に揺れていた。なんて名の花だろう。

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 競馬場正面の道に沿って歩く。馬頭観音が祀ってある。競馬場だから馬頭観音か、もとからある馬頭観音に競馬場を作ったのか。観音の三面六臂の顔が憤怒の形相で睨んでいる。競馬ばっかりやってんじゃねえぞ、たまには働け、このぅ!

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 東郷寺まで足を延ばす。とんでもない広い敷地に墓石が並んでいる。東郷元帥の別荘地に昭和14年海軍関係者が建立した、と説明板に書いてある。奥の方に元帥の墓があるが、なぜか真新しい。失礼だと思ったが、だんだんに腰を下ろさせてもらって休憩。

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 元帥閣下に敬意を表し、だんだんで休ませてもらったし、

 3時近くなったから、人がわらわら湧き出す前に帰ろう。

 総歩行距離は約17㎞。帰宅してのビール一杯、千金の値。