doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

狭山丘陵の北辺

 

 東京、多摩台地。その北西隅に小さな丘陵がある。狭山丘陵(東西11㎞、南北4㎞)。

 標高は200m程度、東西に延びて周りを住宅の海に埋められ、そこに孤島のように浮かんでいる。丘陵の中に東京の水道貯水池、多摩湖狭山湖があり、南側には細長く横田基地の滑走路が伸びている。

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 その丘陵の北側に沿って歩いてみようと思う。というのは、12月のわれらの「歩けサークル活動」の場所がここなのだが、案内役のⅠ氏がその下見をする、というので尻馬に乗ることにした。待ち合わせは狭山丘陵の西端、八高線箱根ヶ崎駅

 

 箱根ヶ崎駅は近年改築したので、新しくてモダンである。10:00ころ、眠いような、そうでもないような、お互いに茫洋とした顔をして落ち合った。青空が広がって天気がいい。風もなく温かい、いい一日になりそうだ。

 

 

 まずは駅近くの臨済宗・圓福寺に立ち寄る。石段の上にカンとして、堂々たる二重の楼門が聳えている。よく見ると楼門の壁際にベンチが設えてあり、両側に8人、若いママさんたちがずらりと並んで井戸端会議中であった。う~む、入りずらいナ!

 勇を興してママさんたちの前を通り境内に入る。余計な看板やら石仏やらが一切なく、とてもすっきりと簡素で、あっけないような佇まい。本堂もどっしり重厚、中でお坊さんが読経中であった。

 境内のベンチで一服する。松の緑がいよいよ濃く、イチョウの葉が色ずきはじめ、カエデがほんのりと紅い。透き通るような空の下、森閑とした静寂の気が立ち込めている。

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 圓福寺を後にして、いよいよ丘陵に取付く。中腹に町の体育施設がある。その脇にまずジュンサイの池というのがあるので立ち寄ってみた。丸い葉っぱが水面に浮かんでいる。池の向こうの雑木の葉が朝の光にきらきらと煌めいた。

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 池をぐるりと回って広いグランドに出た。向こう側に大きなスカイホール展望台。2階の一部がテラスになっている。テラスに立ってみると、遥かな山並みの先に、おお!  白い富士山だ。朝靄がかかってぼう~っと霞んでいる。(カメラが下手なだけ)

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 ここから狭山丘陵の森の中を歩く。陽が射さないから道は湿っているが、整備されていて歩きやすい。ときおり階段となって、はあはあぜいぜいする。登りつめると三角点、「一等三角点・高根」というらしい。

 ここで一服した。Ⅰ氏がつぶやく。「この陽が射さない道は来月寒いかなあ」。なあに、そんときゃあ麓の道に変更すりゃあいい、と思ったが、呑気なことを言ってもと考え黙っていた。案内人はいろいろ心配する。

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 小さなアップダウンを繰り返し、「学校通り」という自動車道を橋で越えた。う~む、久しぶりで自動車道路を見たような気がしたぞ。娑婆は案外近くにあるのだから、いざという、なにかがあっても大丈夫だな、とチキンのこころは思う。

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 そして「出会いの辻」へ出た。陽が燦々と射して温かい。この場所が休憩にいいかなあ、とⅠ氏が又つぶやく。案内責任者は頭の中でいろいろ考えをめぐらす。こっちは特段何の考えもなく、ただのんびり後についているだけだが。

 そこから「高根遊歩道」というエライ急な坂道を下った。なんと! 驚いたことに、この恐ろしい坂を自転車で登る人がいた。ほんとうに人はなんだってする。考えられないような冒険心にあふれている。縮こまって背を丸めているのは自分だけ。

 

 

 丘陵の暗い森を抜けて明るい麓に降りた。今抜け出してきた丘陵の森が、右手にこんもりと連なり、左は広々とした畑の中に家々が点在している。その中に細道がうねうねと続き、空は抜けるように青い。いいなあ! 山道より里道がいいや。

 

 

 Ⅰ氏が「西久保観音堂」へ行こう、というので着いていく。観音堂は形のいい社殿が日差しの中こじんまりと佇んでいた。その境内の隅に説明板があり、それによれば、ここで毎年2回、1月と8月に「鉦はり」が行われるのだそうだ。

 鉦(かね)はりは、太鼓1名、鉦4名をもって構成され、念仏を歌うが如く節をつけて唱えるのだと書いてある。一般には「双盤念仏」と言われ、太鼓、鉦、念仏の唱和が相まって独特の境地に誘い込むという。

 狭山丘陵のほかのところでも、この説明は見た記憶がある。このあたりでは古い信仰が、脈々といまも生きているのだなあ、と思った。信仰心のカケラもないわが身、何か重大な忘れ物をしてきたのではあるまいか? でも後の祭りか!

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 そのすぐ近くに「出雲祝神社」がある。こちらの境内には「重闢茶場碑(かさねひらくちゃじょうひ)」と「茶場後碑」が建っている。つまるところ狭山茶の開発とその後の発展を記したものらしい。

 碑文は漢字ばっかり、読めないから帰宅後入間市のwebサイトをみた。河越茶はずいぶん古く、そして途絶えていたが、文政2年(1819)地元民が煎茶の量産に成功、狭山丘陵の麓で茶づくりを起こした(重闢)。その記念碑で、重闢茶場碑は天保3年(1832)建碑、茶場後碑は明治9年(1876)建碑。狭山茶の歴史を初めて知った。

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 さて本日の狙いは「さいたま緑の森博物館」であるが、如何なるところなりや? 狭山丘陵の北辺の広大な一角(85.5ha)を、住民の要望により埼玉県が取得し(乱開発から丘陵を守るため)、雑木林そのものを博物館として保存する構想なのだという。

 要するに丘陵の雑木の森があって、その中に細い道が整備され、東の端っこに案内所があるという、言ってみれば里山である。丘陵から湧き出した水をためた池や湿地帯や昔ながらの田んぼもそのままに残してある。

 

 

 湿地帯の麓に小さな昔ながらの田んぼが作られていた。子供たちが田植えをし、大人たちが稲刈りをしたのだろう、稲架にかけられた稲が日差しを浴びて暖かそうだ。その奥から丘陵に登る道があった。

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 丘陵に入ったはいいけれど、すぐに迷った。丘陵の中をさまよって居るうちに展望広場という場所に出た。やれやれ、とにもかくにも昼飯にしようや、と言ってお互いにコンビニおにぎりを旨くもなさそうにぱくつく。

 展望広場と言っても標高が低いから何ほどのこともない。目の前に麓の家並みが少し見えるだけ、なんだかなあ、と思う。風が通り抜けて少し寒い。ウィンドブレーカーを着込んで周りを探ってみると、下の谷間に小屋のようなものが見える。

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 小屋に行ってみると、そこがこの公園(博物館)の中心施設で、この森の案内所だという。地図表示は「さいたま緑の森博物館」であるから、いろいろ陳列したり説明されたりしているのかと思ったけど、なあ~~にもなし、随分調子がくるってしまう。

 それでもⅠ氏は係員にいろいろと尋ねた。どうやらこの広大な公園(博物館)を好きなように回って、自分で勝手に勉強せえよ、ということらしい。けれどなあ、もうモノは覚えられないし、そういうことがめんどくさくなっているし。

 

 

 森の博物館を後にしてまた丘陵の森の中を歩く。森を抜け出ると「比良の丘」という小高い丘の上、ネットを見ると春は桜、夏は向日葵、秋はコスモス、四季それぞれに盛大に花を咲かせて、人を集めるらしい。

 一面に同じ花を植えて、人を魂消させようというのが今はやりらしいが、そういうのは3分も眺めれば厭きてしまう。そしてこの季節は薄茶色に刈れていく一面の草原のみ。草原の奥、大木の根元のベンチでおばさんたちが5,6人、秋の柔らかな日を浴びてこれも井戸端会議だろうか。

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 麓に降りて行って金仙寺を尋ねる。本堂横に巨大な枝垂れ桜(樹齢120年と書いてある)があって、それで有名らしい。なるほど巨木であり、枝垂れた枝が茶色に霞んでいる。面白いことに境内の隅に秋桜が花をつけていた。

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 さて、これからいよいよ「狭山湖外周道路」に登る。登る道路は舗装してあるものの結構な急坂、またひーひーぜいぜいが始まった。左手は早稲田大学人間科学部などのキャンパス、その南門の一角でともかくも小休止。ゼイゼイハアハア。

 

 外周道路に出ると道は平らになった。フェンスに「トトロの森〇号地」の看板が掲げられている。これは開発から丘陵の緑を守るために、ところどころの森を市民が買い取って、そのまま残している。これが付近に30数か所もあるらしい。

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 外周道路を、トボトボか、あるいはワッセワッセか知らないけれど、ともかくだいぶ歩いてついに狭山湖(山口湖ともいう)の堰堤に到着、堰堤脇の東屋で大休止。Ⅰ氏と我らがサークルの件でだいぶ話し込んだ。

 「俺たちゃあもう引退だよ、若え衆を引き込むにはどうする?」「サークルのwebサイトの初期画面に網がかかる。金を工面して網を非表示にするべか?」「年寄りがコースを作ってもマンネリだ。フレッシュな人に作ってもらえないか?」・・・

 

 

 いよいよ本日も終点近し。

 堰堤を渡って「山口観音」なる場所に立ち寄り

 西武球場駅から電車で帰る。

 このコースは13㎞ほど。

 

 狭山湖の湖面に黄昏の日が映えて美しい。

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