doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

多摩丘陵の谷戸の道

前回、多摩丘陵を歩いてみたら、がぜん興味が湧き、

今回は西の方から行ってみようと思う。

 

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 京王堀之内という駅で降りたが、とたんに迷った。どうも駅を降りたらすぐ道に迷うようにできているらしい。体がぐるっと1回転すると、もういけない。どっちがどっちなのか、わけがわからなくなる。困ったもんだなあ!

 

 

 早々とスマートフォンにお世話いただき、長池公園を目指す、のだがその前に道筋に蓮生寺というお寺があるので立ち寄ってみた。本堂の前に緋寒桜と枝垂れ桜が咲き始めていた。花があるとお寺が一段と美しく見える。

 このお寺の境内に、大きな宝篋印塔がある。高さ4.5m、高けりゃエライ! というわけでもないが、形が堂々、カッコいい。石面にいろいろ彫ってあるけれど、難しいことが書いてあるらしいから、知らんふりして読まない。

 おじさんとおばさん、ご夫婦だろうけれど、石段を登って境内に入るかと思ったが、門扉の前で丁寧に拝んで立ち去った。う~~む、自分にはこれがない。崇める、礼をする・・・つまるところ信心が枯渇している。反省せえよ。

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 長池公園に入る。遊歩道にちろちろと流れがあって、周りを囲む高い木はまだ裸だが、細い灌木に針の先ほどの若葉が芽生えつつある。春もはやここまで来たり芽の緑。道端の菫の青紫色がちかりと目を射ってくる。 

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 この公園に、都内四谷から、うんこらしょ、と運んできた四谷見附橋というのが、ものすごく威張っている。ああ、本来ならこんな多摩の奥地に都落ちする身分じゃないが、仕方がない、多摩に文明をば見せてくれよう、なんて言っている。

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 奥へ歩いて、緑の水をたたえた池に出る。昔は灌漑用の溜池だったそうだ。周りに多摩ニュータウンの高層住宅ができる前、この谷筋はおそらく田んぼだったに違いない。それが時代の、がむしゃらな変転によってこんなになって仕舞った、らしい。

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 ずんずん奥に向かって、里出口から向こう側の丘陵へ抜けようと思った、が、出てみると向こうの丘陵へ行くどころの騒ぎじゃない。尾根幹道の4車線中央分離帯付きの車ぶわんぶわんで、とても渡れない。

 横断歩道などというものは見当たらない。左へ相当歩いて下り坂になった遥かはるか向こうに信号が見える。だみだこりゃ。ならば右へ又相当歩いて、いい加減草臥れはてて、そして脇へ入る奇妙な道があった。

 帰宅後に調べたら、かってこのあたりに米軍の通信施設があって。そこへの取り付け道路らしかった。今は車が入れない道となっているが、ともかく向こうの丘陵地へは渡れる。いやはや何はともあれ、神様、仏様、道路様。

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 ともあれ丘陵のてっぺんに来たことは、きた。んで、この丘陵の中に歩ける道はあるのか? 地図3種類を横から斜めから眺めてみたが、道はありそうでなさそうで、つまるところよくわからない。分からないから、給水塔があるあたりを探ってみた。

 多摩の横山の道とは別に、丘陵を下っていく道がありそうだ。この道がそれなのか確信は持てないが、まあ、行ってみるしかない。行ってみたら、「泉の広場:こっち」の標識がある。「泉」とは鶴見川源流と言われている湧水のことならむ、ならばそこへ辿りゆく道でよいのだから、少し安心した。

 

 

 丘陵の中に入ったとたん、しんと周りが静まり返った。まだ芽吹かない雑木が周りを囲んで、落ち葉の小道が曲がりくねりながら続いている。なぜかわからないが、とても気持ちがいい。すう~と気持ちが落ち着いてきた。

 下ってちょっと上って、世の中と隔絶したような、森を歩く。とはいっても現実は、丘陵を抜ければ、わんわん騒がしい世の中がすぐ近くなのだが、少しの間だけ、疑似的に、別な世界にいるような勘違いをさせてくれる。

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 そして人家の上に出た。物置小屋の錆びた屋根、畑の白っぽい土、芽生え始めた草地、柔らかな陽ざしの中で静まりかえっている。懐かしいという感情とも少し違うようだけれど、気持も鎮まって、とても気分がいい。

 このままここに居続けたいような気がして、脇の空き地に腰を下ろした。周りを囲む灌木は躑躅だろうか、花芽が膨らんでいる。ほんとはもっとずっと先でお昼の予定だったが、尾根幹道のところで時間を消費し、もはや12時を過ぎている。

 ついでだから、ここで昼飯にした。土筆があちらこちらから顔を出し、青草も伸び始めていた。少し汗ばんだ顔を吹き抜ける風が心地よい。何も考えないが、ただ過ぎるともなく経過してゆく時間が、愛おしいような気がする。 

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 丘陵の下に降りた。そぐ傍に鶴見川の源流と言われている泉がある。まん丸く整形してあって真ん中あたりからかなりの水量が湧き出している。見物人が多すぎて土地が荒れるのだろうか、周りは厳重に囲いがしてある。

 地図を矯めつ眇めつすると、源流はもっと上の方のような気がするが、まあこれも源流の中のひとつ、と自分に言い聞かせることにした。水が流れていく先は、ほんの少しの距離ですぐ他の川と合流している。

 帰宅してネット検索すると、果たしてなかなかいろんな説がにぎやかに議論されているようだ。これがほんとに自噴する湧水なのか、水は地下水なのか等々なのだが、ただ昔この付近に自噴している地下水があったらしい、とは言えるようだ。 

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 さてそれはそれとして、周りを見回すと、源流の泉の脇の道路が緩やかに弧を描いて続き、両側は丘陵の峰に挟まれ、畑が広がり、やはり何とも言えずいい眺めだ。高低差はほとんどないけれど、この道路自体が大きな谷戸地形の中を貫いている。

 谷戸地形は両側の丘陵によって周りと隔絶されており、世間のざわざわが直接には入ってこない。そのことで、とても安心でき、心穏やかな気持ちになるのだろうか。常日頃からぼう~~っとしているのだけれど、いっそうよりをかけて、ぼう~っとする。

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 ぼう~~っと歩いて行って、谷がだんだん広がり車も多くなった。しかし足が重い。昨夜は寝不足だった。それが今になって、知らん顔して効いてきたかもだ。全くもう、すぐにへばったり、方向を失ったり、碌なもんじゃない。

 へろへろしながら、やっと大泉寺にたどり着いた。ここは前に歩いた時の終点、だからここからは前の時と逆コースで小野路宿里山交流館へ行くことになる。が、とにかく大休憩して疲れを治め、元気を回復しなくちゃならぬ。桜の下に休む。

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 疲れが取れたかどうかおぼつかないけれど、ま、出発。前回は通らなかった小山田緑地という公園を通り抜けることにした。石畳の山道に竹林があって、その爽やかな緑で少し元気が出る。シデコブシの花が満開、きれいな色だ。

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 そして奈良ばい谷戸の入口へ来た。前回は降りてきた谷戸を今度は上る。下ったところを逆から行けば、当然のこと登りである。前回、楽に下った道だが、当たり前だが登るのはつらい。しかし眺めは、前回と変わらず素晴らしい。

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 この谷戸は有名らしい。何人か笑顔満開ののハイカーに出会った。桃だろうか、紅白の蕾がもう花開こうとしている。のそれはいいのだが、上の方の登り道がきつい。前回は何も感じなかった、あたりまえ、下っていたのだから。

 例によって例の如く、ひーひーはぁはぁ、十歩進んで休み、五歩歩いてまた休み、軽く女の人に抜かされる。抜かされるのは面白くないが、止むを得ざれば即ち仕方がないのだから、おとなしく、わが老化を認めるに如かず。

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 丘陵の頂上から見晴らし広場ゆき、横浜方面を眺めてみた。が、天下は茫々、とても
ランドマークなんか見えやしない。カメラも悪いし、目もダメだし、体もよたよただし、じつにまあ、困ったものである。

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 下りにかかったところで畑が現れた。傾いた陽が、満開の山茱萸の鮮やかな黄を輝かせる下で、おじさんが畑をしている。いい眺めだと思ってパチリとしたが、アンだよう、ちゃらちゃらしやがって、見世物じゃねえやい! なんて言われると大いに困る。

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 そうしてついに、遂に! 里山交流館にたどり着いた。へろへろ、よたよたである。もう一歩だって歩くのはヤダ、ここからバスに乗る、歩くもんか! まずはコーヒーをゆっくりと味わう。窓の外はゆっくりと夕方になってゆく。

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 ここまでの歩行距離:約17㎞。

 丘陵の谷戸は心鎮まるところだった。

 疲れたけれど、また来ようと思う。

 

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