長い期間、余りにも出歩かなかったので、なんだか、もやくしゃしている。
で、奥多摩の渓谷を歩くことにした。
最寄駅から電車に乗ったら、車内で珍しいものを見た。車両の真ん中あたりで、中年のサラリーマンらしき男が椅子からずり落ち、椅子の角を枕にしてぐっすりと前後不覚、通路に体を投げ出して寝ていた。
周りの人たちは、なにか汚いものでも見るような、蔑みの視線をちらちらと投げかけている。その傍の座席が空いていたので座って観察すると、酒に酔いつぶれた様子でもない。あまりにも気持ちよさげに熟睡しているので、そっとして置いた。
すると駅に停車したとき、学生らしき男が立って件の男のそばに水の入った、まだ手を付けていないペットボトルをそっと置いて下車した。しばらくの後また駅に停車したとき、今度は若い女性が近づいて男を2,3回揺さぶったが起きないので諦めて下車した。
それを見て、近頃の若い人たちはエライものだと思った。周りの大人は概して汚物を見る目付きだったが、彼ら二人の若者はスマホを見つつも、男の様態に気を付けていたらしい。男はときおり足を曲げたりし、うめき声も上げないので様態が悪いわけでもなさそうだった。それで、別な電車に乗り継いだ。
閑話は大いに休題である。本題に戻って奥多摩の渓谷の話である。電車は白丸駅に到着した。山の中腹であるから、誰もいない、何もない。ぽつねんと降り立って白丸ダム湖へ急坂を下った。ダム湖の端の数馬狭橋から下を見下ろす。
ダム湖の水面は、周りの山の色を映して緑に染まっている。ずっと向こうの下流から何かが近づいてくるのが目に映った。サーフボードのようなものに乗って、パドルを漕いで近づいてくる。湖面のアメンボである。楽しそうである。
ところで、今回は動画を撮影する方に神経が行ってしまって、写真が一つもない。慣れない動画撮影は難しい。実はこのところあまりにも暇だから、一から動画を作ってみようと思った。それで今日は、散歩を兼ねて初心者動画撮影に出かけてきたのだ。
ダム湖の脇の危うい遊歩道を歩く。林の中だし、水辺に近いし、暑さは感じないけれど、湿気は多い。水蒸気がねっとりと体にまつわりつく感じがする。しかしまあ、雲に覆われた空に地獄の如き日差しはなく、山の冷気さえ感じられる。
緑の光を放つ湖面には、またアメンボがす~いす~いと渡っていく。今度は小さなボートに二人並んでパドルを漕いでいる。彼らの目線はおそらく水面と一緒だろうから、こちらで見る世界とは一味違う世界が見えているのだろう。
ダムの堰堤を過ぎて鳩ノ巣の渓谷になった。川幅を狭められた水は、白く泡立ち急流となって下る。ごつごつした川岸の間にヤマユリが咲いていた。このユリがいい。大柄の花なのに気品がある。その上かぐわしい香りが上品である。
鳩ノ巣小橋を仰ぎ見てからその子橋を渡って対岸出でる。これで鳩ノ巣渓谷が終わって次の御岳渓谷まで、しばらくは里道を歩かねばならない。普段なら里道大いに結構というところだが、動画の題材にはなりにくいようだ。
目を楽しませてくれるのは、畑に咲く花々だ。畑を耕していた人が高齢化して、もう耕せなくなったのだろうか、野菜の畑はみな花畑に転換しているようだ。そんなことを思えば、目は楽しませてもらいつつ、こころは複雑な思いがする。
御岳渓谷へやってきた。ここにもアメンボたちがいる。こちらのアメンボは、水辺を渡るのではなく、どんぶらこと流れるのだ。カヤック、ゴムボート、それからはじめてみた半切りのゴムボート(名前を知らない、独り用)などに乗って流れ下る。
赤いカヤックの中年男性が急流を猛然と漕ぎ下る。猛烈にカッコいいではないか。見ているより漕いでいる方が、恐らく百倍くらいカッコいい。波に突っ込んでいく爽快感が伝わってくる。
ゴムボートの流れ軍団が3個小隊、続けざまに流れていく。最初の2小隊は流された、という感じだったが、最後の女子軍団と思われる小隊が、これは紛れもなく漕ぎ下ったと言っていい。いつの時代も女子は強い。
御岳駅の下の河原で休む。流れていく川面を見ながら、しばしの間ぼ~~として時間を過ごした。考えているのである。ここから小一時間下った澤乃井ガーデンで、川を眺めて一杯やろうか、それともくたびれたから、御岳から帰ろうか。
そんなことを考えていたため、幾人ものアメンボたちが、それぞれの得物で川を下って行ったのに、一つも動画撮影しなかった。今考えてもこれは失敗だったなあ。飲むことや帰ることを考えては、いい動画は取れないゾ。
帰宅して動画を見たら、案の定画質ぼんやり、手振れブレブレ、惨憺たる有様。動画はやはりあらかじめストリーを考えて撮影した方がいいらしいと思った。
この動画をパソコンに取り込むのに、どこをどう間違ったのか、すんなりいかなかった。もう冷や汗にまみれながら、どうにかこうにか漕ぎつけた。
動画の編集と来たら、どうすれば思い通りに動いてくれるのか、意のままにならぬ仕組みに四苦八苦。若い人なら勘でちゃちゃっと行くのだろうけれど。
結果は無様だったけれど、まあ何も知らないのだから仕方がない。
これに懲りたか、懲りなかったか、ま、暇だから。
動画リンク
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