doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

ドラム缶橋、渡る

 小河内ダム奥多摩湖の南岸を歩いて巡る道がある。

 途中に「山のふるさと村」という公園があって、最後はドラム缶橋を渡る。

 

                       (ネット画像:ドラム缶橋は「麦山浮橋」が正式名称)

 地獄のような毎日の暑さだが、ひょっとして山の湖は爽やかにして涼しいかもしれない。久しぶりでもあるし一丁行ってみっか、と思い検索したところ、「奥多摩いこいの道(全長12㎞)」という名の遊歩道は、真中あたりがぽっかりと工事中、通行止め。 

 やんぬるかな、然らば手を変えて、逆から、ドラム缶橋(麦山浮橋)を渡って「山のふるさと村」へ行き、体力余裕ありせば湖岸の「いこいの道」を少し歩けばいいではないか。もう夏場に「12㎞+ふるさと村~ドラム缶橋」全線、歩ける自信はない。

 

 奥多摩駅からバスに乗った。同乗者が意外と多い。みな高校生ぐらいの男女グループ、どこへ何しに行くのだろうと訝しいが、こっちはもっと怪しき風体の老人だから、向こう側からはごってりと訝しがられていることだろう。

 などと思っているうちに、小河内ダムサイトに到着、男女グループがわらわら降りたが、ここにはボートも遊び道具も、なにもないのになあ、どうすんだ。と思いながら、そのまま乗り続けて「小河内神社」バス停で下車、他に男の子二人も下車した。

 

 空青く雲白く、山の木々がもりもり盛り上がって、湖水が深い緑に染まっている。夏空だなあ! がしかし、それほど暑くはない。さわさわと微風が吹いてきて、かえって爽やかってぐらいなもんだ。標高500mはダテじゃないナ。

 

 ここにドラム缶橋が架かっている。以前来たときは、たしか正真正銘ドラム缶を浮きとしていたが、さすが科学が進んで今じゃ樹脂製の四角い浮きが並んでいる。木製の橋そのものも、なんだか、しっかりがっちり作り直されたようだ。世はすぐ進歩する。


 不思議な水の色だ。藍色と緑色をこき交ぜて、その裏側から強い光を当てたような輝きがある。宝石などは見たこともないから、エメラルドグリーンなんて言えない。ま、無難に「とびきり明るい群青」とでも言っておくか。 

 湖面に無数のさざ波が立って、それが陽を受けてきらきら輝く。晴れた夏空が湖面に映り込んでいるのかもしれない。空気が爽やか。平地に比べ風がそよそよ、汗が出ない。湖の周りはことの外なのだろうか。

 

 さて、ごちゃごちゃ言っていないで橋を渡ろう。先に行った若者二人が視界の邪魔だけど、お互い様だからしょうがない。3mぐらいの長さの、前後の左右に浮きをつけたユニットが、太いワイヤーで何十個もつなげてある。

 歩くと左右に少しだけ揺れるが、ズンと沈み込んだりはしない。ゆらゆらするのが、童心を刺激して、楽しいような、そうでもないような。先の方を見はるかすと微妙なカーブを描いている。水面の高さによって伸びたり縮んだりするのだろう。 


 ゆらゆら渡って行って向こう岸に着いた。先に行ったはずの若者が、煙のように忽然と消えてしまった。幽霊だったんだろうか。向こう岸から梯子段が伸びて山の中に消えている。振り返ってみればドラム缶橋が大蛇がのた打ったようである。


 橋を渡り終えて山道に入る。ダム湖に落ち込んだ山の斜面に、辛うじて刻まれた細道が続いている。左側は湖面から数mの崖、右は山斜面の崖、崖だらけだから油断は禁物。しかし頭上に樹木が茂って涼し気な、いい道になっている。

 周りに誰もいない。利口な人はドラム缶橋を渡ってみて、ふ~~んと言って引き返すらしい。そうでもない人がこの道をとぼとぼ歩く。ときおり、木の間を渡ってきたそよ風が、この上なく涼しい。水の上を渡ってくるから、ひとしお。

 

 ここから「山のふるさと村」公園まで約2㎞、徒歩40分だそうである。ほぼこんな狭い崖道が続いた。が、道はよく整備されていて、歩行の妨げになるものは何もない。もしあるとすれば、脚力と体力の不足だけ、これはもう自前もちだ。

 2㎞の道を独りぼっちで歩いていると、とても長く感じる。熊も猫も甲虫も見当たらないから、誰とも話しができない(話ができても熊はご遠慮申す)。こんな時頭に浮かぶのは、来し方のあれやこれや、だがいずれも碌なもんじゃない。

 頭を振って、行く末を思い描こうとするけれど、どういうわけか、なんにも見えない。見えないも道理、行く末は空っぽらしいのだ。仕方なく、煌めく葉っぱを仰ぎ、道の土を見つめ、湖面の輝きを眺めて、頭から邪念を追っ払う。

 

 という具合にして、山のふるさと村に到着。なんだかシィ~ンとしている。期待した子供たちの叫喚はどこにもないようだ。園内を描いた絵看板があり、見れば随分いろんなゾーンに分かれているようだけれど、肝心の人がいない。

 ビジターセンターで聞いてみたら、バスは土、日、祝のみ運行、それも最寄駅から延々と遠いらしい。要するにアクセスが極端に悪い。これは、近寄りがたい子供たちのための公園というべき、致命的欠陥だなあ。

 

 木陰で昼飯。さわさわ吹く風がほんとに気持ちがいい。沢水のせせらぎと、しゅわしゅわと蝉の声のみ。以前ここへ立ち寄ったときは、隣の沢のせせらぎで子供たちが、大いに遊んでいた、というかすかな記憶があったんだが・・・

 昼飯の後、ビジターセンターのモニターで郷土芸能「鹿島踊り」の映像をみるともなく見た。遥かな過去から営々伝えられた芸能なのだろう。ふと、こういうたぐいのものはとても重要なものなのだ、という思いで胸がいっぱいになった。ついぞ無きこと。

 

 

 午後から「奥多摩湖いこいの道」をダムサイト方面へ少し歩いてみることにした。こちらも樹木に覆われて、熱中症の心配は皆無。湖面から数mの高さを保って、淡々と続いている。山から流れ出た沢水に手を入れてみると、その冷たくて心地いいこと!

 しかし同じ眺めの道が続いて、飽きてきた。引き返して、またドラム缶橋を渡りなおし、小河内神社からバスに乗ろうと思う。まだ日が高いし、体力もガス欠にはなっていないようだが、樹林の間に輝く水の眺めを、目に焼き付けて引き返そう。

 

 山のふるさと村に戻り、澄み切った沢の流れに足を入れて、長い時間遊んだ。沢蟹がいないだろうかと思って、無暗に石をひっくり返したりしたが蟹はいなかった。流れに石を積んでダムも作った。こんなことをしていると、時間はすぐたってしまう。 

 

 

 夏が過ぎていくなあ、と思う。

 べらぼうに暑い夏だけれど、

 夏が過ぎていくのは、いくばくか寂しい気もする。

 

動画練習

 

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