doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

尾根をゆく眼下にゆかし里の梅

 

 

 思いもせぬ暖かい日が続いて、これはもう散歩にしかず。

 多摩丘陵の尾根道などはどうか、あらゆる隙間にまで住宅が入り込んでいる丘陵だが、その天辺の尾根のあたりだけ雑木林の小道が残っていて、そこへ入れば人里離れたような気分になれる。ちょびっとだけ旅の気分。

 

 

 駅を出ると谷戸地形の左右に低い尾根が走っていて緑が見える。住宅の裏側から獣道のような細い道が尾根に続いて、登り道は息が切れるから嫌だが、止むを得なければ仕方がない。うんせ、うんせと尾根まで登った。

 ぎょっとするようなものが目に飛び込んできた。向こうのコナラの立ち木に巨大な蛇が巻き付いて、木を絞め殺している。その目がらんらんと光ったような気がした。蛇はいかん、大小にかかわらずいかん。細い尾根道が向こうへと続いている。

   



 人気のない細道をぽつねんと歩いて行く。こんなことのどこがおもしろいんだ!? と自分でも思う。しかし家に帰れば、また出かけたくなる。ともかく外に出れば体を動かし、目の前の風景が順次変わっていくが、部屋に籠っていてはただ太るだけだ。

 やがて尾根道が尽きて車道の峠道に合流、このあたり人家がぱらぱら出てきた。人家があれば花がある。ヒトというものが何故花を愛ずるようになったのか知らないが、周りが冬枯ればかりだから、なんでもない花が愛おしく見える。  

 

 



 人気のない道を下っていく。このあたりに旧街道の切れっぱしが残っていると聞いたが、グーグルマップで調べた時は土手だったところへ、がっちりとコンクリの擁壁が聳え立っていた。なんじゃこりゃ! 取り付くしまがないじゃないか!

 周りは広い範囲の土が掘り返されていて、開発中の様子、ふと見れば向こうの土手に怪しの階段が目に入った。いかにも取って付けたような、何のためのものか解らない、奇妙な階段、もしかしてあの上が旧街道につながるのか?



 しばらくの間あれこれ考えて、工事中の場所に闖入するなどということは、小学生だってしない、がしかし、旧街道を探るについては、この手しかないのではないか、虎穴に入らずんば虎児を得ず、幸いあたりに人気はない。そっと忍び込んで階段を登った。

 登りつめてみると、案の定そこから土の道が雑木林の向こうへと続いている。これが切れっぱしの入り口なのだろう。大いに気をよくして歩いたが、枯れ木や枯れ草が散乱していて、人が通った形跡がない、ないけれど、るんるん気分である。

       

 

 

 るんるんでしばらく歩いたら、むこう向きの看板に突き当たった。いま歩いてきた道は通行止めだと書いてある。う~む、工事現場には闖入する、通行止の道を平気で歩くは、とんでもない爺いである。

 そこから先へ、まだ切れっぱしの道が続いているらしいので、辿って行った。途中出会ったのは、子犬を連れたおっさんただ一人、もはや廃道になってしまいそうな感じだが、残ってほしい。里道まで降りてきて、切れっぱし探索は終了。

 

 

 下りた場所の片隅に、紅梅、白梅、河津桜の早春三役そろい踏み、おお~~などと声が出る。花が少ない時期だから思わず眺めてしまうが、春たけて花に飽きてしまえば振り向きもしない、薄情者なのであるが・・・

 河津桜は薄いピンクの花がなまめかしい。全国をソメイヨシノが席巻しているけれど、それに替えるならこの桜がいい。だがしかし、全国がまたこればかりになってしまえば、ソメイヨシノの清楚が懐かしくなるかも、身勝手なのであるが・・・

 

 さて、と地図を眺めて思いめぐらしてみる。七国峠、という場所に続く尾根道がある。その道はこの近くの造形大学というところへ出て、そこから続いているらしい。造形大学へ向かう道を歩いてみると、今までと同じような土の道が続いていた。

 その道を、のんのん、ずいずい気分よく歩いて行くと、住宅団地の天辺に出でてしまった、ここはどこ? どこへ行くの? 状態、早く言えば道に迷った。ちょうど庭先におばさんがいたので、造形大学へは? と聞く。

 近道があるのよ、と言って、しかし口で言うのはめんどくさくなったらしく、今来た道を一緒に戻る。歩いて行くなんて私には考えられないわ、と呟いている。そうだよなあ、酔興にもほどがあるよなあ、と肯く。見落としていた分岐まで一緒に来てくれた。

 

 

 七国峠に続く尾根道の入り口をようやく探し当て、やれやれと歩き始める。八王子市と町田市との境の尾根道だと書いた看板があったから、これで間違いない、ほっとした。落葉が重なったふかふかの道が続いている。

 右手の木の間から遠く八王子市街が見える。場所によってはすぐ近くまで住宅地が迫り、甍の波がびっしりと埋め尽くしている。途中なんにんか人と出会ったから、人気の散歩道なのかもしれない。

 

 

 

 低い谷間が貫入して、階段で谷に降り向こうの斜面を又階段で登っている。6年生ぐらいと幼稚園ぐらいの、姉妹らしい二人がこっちに登ってくる。道を開けて待っていると6年生がにっこり微笑んで会釈した。幼稚園が懸命に足を上げて登る。

 階段を下るについては特に問題なく、登るについては大いに問題あり、20段ほどの段差でも息が切れる。毎度のことだからもう嘆かない、登り道はなぜか知らないが、空気が薄いのであろう、困ったことである。

 これ以降は起伏の少ない道を坦々と歩き、峠の標識まで来た。この道は貴重な散歩道でもあるらしく、また保全緑地だそうだからいつの間にか消えてなくなる、ということはないだろう。都市の中では嬉しい場所だ。


 

 中央公園という雑木林の中を下っていく。下りは息が切れないから楽ちん、世のなか、下りばっかりで登りがなければ大いによろしい。公園の麓は「四季の丘」でグランドやテニスコートなどがあり、家族連れが三々五々。

 四季の丘の中にまた河津桜と真っ赤な梅が満開に咲いていた。本日のダメ押しかな? 貴重な花だが、ここも、もうしばらくしたら、花々でむっせけえるようになるに違いない。花であふれかえる風景があたり前のことになるんだなあ、たぶん。




 街の中を駅までのんびりぶらぶら歩いた。

 春はまだ浅いけれど、ウソつかれたように温かい。

 3時半ごろ帰宅して、13㎞、満足した。