doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

遥か出雲へ③ (富山・金沢)

 

 

 糸魚川の怪しき宿の夜が明けた。怪しきお婆は姿が見えぬ。

 コンビニでそそくさと朝飯を詰め込み、さ~て出発。北陸道に乗って、とりあえず富山市へ向かう。この道路は山襞に入り込んで、海は見えない。山の緑は美しいがいささか退屈である。旅の移動は退屈をしのぐこと。

 周りが山に囲まれているためか、なんだか雲行きが怪しい。中腹から霧が湧き上がっているが、水墨画の如き、と風流を決め込む気にならない。行く先の天気が心配なのだ。ふと「北国日より定めなき」との断片が頭に浮かぶ。

 

 

 「親知らず」という案内標識があるが、むろん立ち寄らない。崖を眺めてみても如何せん、しょうがない。長い時間、山の中を走った。トンネルに次ぐトンネル、北アルプスの山塊が海に落ち込んで、断崖絶壁が続いているのだろう。

 ようやく富山平野に抜けたのだが、なんだか山の方へ山の方へと走っていく。どうやらナビ設定を間違ったらしい。目指す「富山市郷土博物館」は確か富山駅の近くのはず、もう面倒だから目的地を富山駅に設定した。これなら間違えようがない。

 広々と広がる富山平野の田園地帯を抜け、家並みの中の狭い道を曲がりくねり、だんだん富山駅に近づいた。道を間違えたおかげだろうか、優しく広がる田園や狭い街並みの光景が強く印象として残っている。予期せぬことが起って、旅は面白い。

 

 

 富山市郷土博物館をようやく探し当ててみたら、何のことはない、天守閣の中だった。入ってみると、この地を治めた領主の歴史だけ、これはもう、ネットで読めばそれで済んでしまうことだ。そそくさと表に出てしまった。だから写真がない。

 天守の周りの広場に若え衆が群れている。お祭りの準備か、お祭りそのものなのか大勢の人が佇んでいる。人々の顔つきは「素朴」という感じがする。また、街並も高いビルが少ないし、富山の街は全体的に、素朴で優しく伝統的な雰囲気をまとっているように感じられた。

 

 

 富山平野の隣、南砺市に抜ける。ずっと昔、ここの散居集落の写真を見て以来、いつの日かその按配を眺めてみたいと思っていた。散居集落の真ん中を車で走ってもその按配はわからない。空は晴れているから展望に上ればよか眺めに違いない。

 平野の端っこの「閑乗寺公園」という展望所に登ってみた。・・・がび~~ん! なんということだろう、霧雨が落ちてきて展望効かず、絹のような向こうに茫々と霞むのみ。これにはほんとに落胆した。北国日和なんとやら。

 

 

 本来ならこの看板のようにくっきりと展望できるはずだったが、「はず」はあくまで「はず」であり、お約束ではなかった。あまりにも悔しかったから、しばらくうろうろ待ってみたが、晴れ上らなかった。旅先では何事であれ、思い通りに行かない。

 止むを得なければ仕方がない、後ろ髪を引き抜かれるような思いで立ち去る。でもまあ、概ねこんな按配に見えるのだなあ、ということが分かってそれは良かった(悔し紛れ)。この景観はこれからも変わらないのだろうか、それとも・・・。

 

                                   (霧雨に茫々霞む散居集落)

 

 石川県境の山あいに入る。新潟ー富山、富山ー石川と山が遮って県境がわりと分かりやすい。金沢の盆地に下って行って、「ひがし茶屋街」立ち寄る・・・が、こんなに人がごってりいるとは思いもよらなかった。うっかりすると踏みつぶされそうだ。

 まあ、観光地と言っても、茶系統の古い建物が並ぶ地味な場所だし、娘っ子などはいないと思っていた。いるのだそれが、ごまんと! 浴衣に身を包みアイスクリームを舐めている。お婆さんお爺さんが手をつないでふらふらしている。

 昔の建物を見ているんだか、人を見てるんだか分からん。とてもじゃないが、「しみじみ」なんていう余裕はない。迷子にならないよう、踏みつぶされないよう、弾き飛ばされないよう、ひやひや歩いて一回りして終わった。

 

 

 

 ほうほうの体でひがし茶屋街を抜け出し、街角の蕎麦屋に入ったら、これがなんと、旨かったのだ。きりっと角が立って冷たく、それでいて喉越し良好、思わぬ拾い物をした。そこから国立金沢工芸館に行く。兼六園なんぞ吹っ飛ばしてしまうのだ。

                        

 

 工芸館の建物は、明治の洋館の如き姿で、白壁と青い窓枠のコントラストがとても美しい。似たような建物が二棟並んでいるが、向かって右の青っぽいのが工芸館であるらしい。左の棟には行かなかったので、なにがあるのかわからない。

 


 入ってみたら、ロビーにダンゴムシないしコガネムシの親玉みたいなのが、ぬぼう~~っと立っていて驚く。館の名から金箔だの、漆だのその他の工芸品を想像したのだが 、ここではそういうのはやらないらしい。企画展示だけだ、と説明してくれた。

 展示テーマは「水の色、かたち」というものらしいけれど、芸術と言えるような作品が展示してある。しかしながら、芸術らしきものを一滴たりとも解さぬ輩だからどうしようもない。展示が芸術作品とあってはおおきに困った。

 

 

  

 

 国立金沢工芸館は、お城の一画らしい高台にある。付近には博物館、美術館の類がいくつも並んでいる。さすがは加賀百万石前田公のお城、規模がでかい。傾きかけた柔らかい日ざしが広い公園に降り注いでいる。秋の日だなあ。

 

                               (赤レンガの建物は石川県立美術館)

 

 

 金沢の街では、ほんの一瞥だけれど、街並みも人もあか抜けている印象を受けた。

 都会的な、と言ってもいいかもしれない。(一瞬の印象だからあてにならないけど)

 文化が累々と蓄積された豊かな地方都市、という感じだ。

 

 さて、今夜の宿は福井だ、どんなところだろう。