doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

新緑の相模(旧甲州街道・相模湖~上野原)

 

  ちょっと中断していた「旧甲州街道歩き」、温かくなったので再開。

 長い街道、どこまで行けるか分らないけれど、ま、行けるところまで。

 

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  旧街道歩きは日本橋から始めるべし、という気もするが、ビルの谷間をひたすら車の排ガスと歩くっていうのもなあ! と思うので、歩き始めが高尾駅。で、今回が3回目。前回は小仏峠を越えて相模湖駅まで歩いた。今日はそこからスタート。

  

 

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  相模湖駅に降りたら、裏山の木々の、様々な若葉の緑が、ほわほわと泡のように盛り上がって、どえりゃあきれい、こりゃ、今日の歩きは新緑まみれか? はや心が浮き立つなあ。今日は上野原まで行きたいが、その距離を調べなかったので どうなることやら。しかし、いざとなれば、行き着いた近くの中央線の駅まで無理無体に歩いて、それで帰ることはできる。なに心配することあろうや!

 

 

 まずは車ブンブンの国道20号線を西へと向かう。相模湖と山に挟まれて、国道沿いに住宅や商店がぎしぎし詰まっている。しばらくして右手の山へ登る道が分岐、地図によるとここから旧街道が始まるらしい。

 道幅は3mぐらい。少し上っていくと慈眼寺の門が見える。しかし階段を登らねば、しんどいなあ、と思って佇んでいたら、石碑に「相模の景勝」なんて書いてある。じゃ階段を上る。そこは中央道に架かる橋だった。お寺の参道を高速が踏みつぶしたのだ。

 お寺の門前から眺め下ろしてみれば、眼下の高速の向こうに住宅がひしめき、その向こうに青い相模湖、そして向かい側の山。新緑の山がことのほか美しい。遠景に目を転ずれば、新緑のかなたに突兀とした山が幾重にも重なって、なるほど綺麗だ。

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 お寺の門前に戻って、旧街道の坂道を登る。狭い道の両側に、肩を寄せ合うように民家が並ぶ。車がまず走っていないからとても静かで、鶯なんぞも鳴いているのだけれど、上り坂が続くのには閉口する。

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 と、突然、中央道のガード下で道が立ち切れた。よく見ると下の20号線へつながる階段がある。階段を降りた。後でよく考えたら、旧街道はここで山側にぐっと入り込んで戻ってきているのだ。ならば、階段を下りないで、その脇をすり抜ける道があったのだろうか? どう見ても行き止まりであって、道などなかったように思うのだがなあ!

 で、20号線に降りてぐるりと回込み、すぐまたガード下の細道を登って旧街道に戻った。今度はエライ急な坂道だ。息が切れる。休み休みひーこら言いながら登る。なんだってこの街道はひたすらに登るんだろうか! もう少し平らな道はないのか!!

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 ようやく道が平らになって展望が開けた。山の中腹だから眺めがいい。左下に中央道、その向こうに相模湖の端っこ、遥かに連なる山並みがおもしろい。周り中が若葉、新緑まみれ、おおきにいい気分だ。

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  もうひとつカーブを曲がると、今度はなだらかな上りとなった。こうなると俄然元気になる。空は青いし、風は甘いし、長閑を絵にすればこんなものかと思う景色だし、人はいないし、いうことあらへん!

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  ところがだ! また急坂になったのはどういうことだ! もう坂道は十分だってのに、いいかげんにせえよ! 再びのはあはあひーひー。どうにかこうにか登り切ってここらあたりが最高点かと思われる。

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 最高点は標高285m、案外たいした標高ではない。騒ぎ立てるほどのことではないけれど、ともかく我は上り坂にめっぽう弱い。歳とともにこの傾向に拍車がかかり、上り坂を恨むこと、鬼または蛇の如し。

 実はここから直角に曲がって川べりまで下るはずだが、分岐点がよくわからなかった。畑のおばさんに聞いたら、「ちょっと過ぎちゃったね、あそこの家の裏に道があるから」と親切。この後でも道を聞いたが、この辺の人は旧街道をよく知っている。

 

 

 教えられた道に入る。あろうことか、今度はどこまでも下る。中央道を橋で渡って中央線のトンネルを越え、ひたすら下る。下ってしまうのがもったいないが仕方がない。しかしこの旧街道はどうしてこんなに、上り下りばっかりなんだろう?

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 ここは藤野町の町域だが、初めて旧街道の案内標識が現れた。それによればこの辺りは「赤坂」という地名らしい。ん? 宿場じゃないのか? 。今日歩く地域の宿場は、与瀬、吉野、関野、上野原らしいのだが、宿場らしい何かはあるのだろうか?

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 せっかく案内標識が整備されているのに、ここでもまた道に迷った。へんてこりんなところへ出てしまい、おかしい、と庭に出ていたおばさんに聞くと、「道の途中に沢に降りる階段があるだ、沢を渡れば旧街道ですけ」とこれもすぐさま教えてくれた。
 う~~む、これは分りにくかった。たしかに路傍に例の標識があったのだが、木の陰になっていて見落とした。旧街道が舗装道路ばかりだと思うのはとんでもねえこんだ、本来は土の道なんであるから、そのように心得なければならぬ。

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 更に下っていくと国道20号に突き当たった。国道の脇に「吉野宿。ふじや」がある。吉野宿本陣であり名主の家だったらしい(現在は郷土資料館)。今日初めて宿場らしい建物を一つ見た。通ってきた道には、宿場の面影はほとんど残っていなかったなあ。

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 ここからしばらくは国道20号を歩く。つまり、旧街道が国道に踏みつぶされたわけだ。毎度のことながら、車ブンブン国道は味気ない。どころか、歩道がない。脇の側溝を歩くと、ダンプがゴウウ~と通り風圧でふらつく。命がけだよ。

 

 

 それでも橋の上からの眺めは大変いい。眺めと言っても山また山ばかりだけれど、この時期の山はとても素晴らしい。淡い紫のフジの花の向こう、山の中腹に中央道が貫く。すごいところに高速道を作ったものだと思う。

 反対側は、相模湖から相模川となった深い緑の川筋が、山襞のかなたへ消えていく。重畳と連なる山々は緑から薄紫そして薄い青にだんだんと変化して、春の空へと溶け込んでいる。子供のころから、あの山の向こうに何があるのだろう? と思っていたが、その思いは今もちっとも変わらない。山の向こうはまた山だけなのになあ。

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 所により旧街道が分かれているが、すぐまた国道に合流する。そんな道路をダンプに脅かされながら歩くことしばし、さりげなく旧街道が左に分岐している。この道をグーグルさんは旧街道だと言っている。グーグルさんを信用する。

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  旧街道の分岐に入り下っていくと、そこは住宅の間に延びる細道、特段の変哲もない。車がないだけのんびりしている。さてそろそろ昼飯にしたいが、どこか眺めのいいところで食したい。昼飯は、たとえコンビニおにぎりであっても楽しみなのだ。

 ふと見ると住宅の隙間に一段高くなった草の土手がある。薄紅色の八重桜が一本、まだ花をつけて揺れている。お~~し、ここがいい。人の目も隠れるし(第一人がいない)まあまあの眺めではないか。これぞ最高の青空食堂なのだ。

 靴を脱いで、草のひんやりした感触を素足に感じる。草が青い風に首を揺らす。オニタビラココオニタビラコかなあ、一面に咲いている。八重桜がちらちらと花びらを風に散らす。これぞ五つ星レストランでなくて何であろうか!?

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 昼飯が済んだからにはまた歩かなくてはならない。食いっぱなしというわけにはいかない。細道はだんだん細くなって、そしてぷつりと消えた。階段があって橋があって向こうに土の道が続く。うむ、今までも道が消えることがあったが、その例だな。

 

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  林の道を抜けると、街道は中央線を跨いでいく。ここでも旧街道は中央線に踏みつぶされたのだ。旧街道はいたるところでさんざんいじめられるが、それを愛おしく思い、歩く人もいあるのだ。まあ、変化があって面白って言やあ面白い。

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 中央線を跨いでいくと国道20号に突き当たり、ちょっとの間また車ぶんぶん、ダンプガオ~~の道路になる。が、再び左側に密やかに分岐点が現れる。これもまた、グーグルさんを信用して、細道を下る。下り切ったら相模川に架かる橋が見えた。

 その橋の手前をぐるりと回って、今度は県道520号線となる。これが旧街道でっせ、とグーグルさんが言うのだから、これでいいのだろう。なのだがこの道がまた腸の如くぐにゃぐにゃ曲がって、ぐんぐん高みに登っていく。

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   覚悟を決めて、しかしながら又しても、はあはあ、ひーひーこきながら、急な坂を上る。坂の途中から景色を眺める風を装って、一息入れながら下界を見下ろす。今登ってきた道の向こうに、大きな景色が広がる。相模川が青く光っている。

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  途中に「諏訪関跡」という標柱があった。上野原教育委員会の説明板もある。ここに通行人を見張っていた番所があったらしい。してみるとここが旧街道であることは間違いないだろう。ようやく上野原へ入ったなあ、と思う。

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 登りきると両側が開けてきて、台地状の上に広い道が続いていた。しかし緩やかだが登り道である。登り道は疲れる。道端の花が疲れをしばし忘れさせてくれる。今まで山の中ばかりだったので、広い台地の上はことのほか胸が広がる。

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 車のいない、人もいない、犬もいない、長閑な道が緩やかに登りながら続く。、静かで明るくて、懐かしさを覚えるような道だ。こんな道がずっと上野原の街まで続いているらしい。どうやら目的地までたどり着けるなあ!

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  慈眼寺(最初に立ち寄ったお寺と同じ名前だ)というお寺の境内で、しばし休憩させてもらった。午後の陽ざしが暑いくらいだが、空気がからりとしていて心地よい。ベンチでゆるッとしていたら、住職がちらりと一瞥して中へ入っていった。

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 上野原の街並みに入った。右手から国道20号が合流する。立派な郵便局が少し眠たげに建っている。ここは旧街道でも大きな宿場だったらしい。街並みそのものがいかにも宿場、という雰囲気で佇んでいる。さて、3時だ、ここから帰ろう。

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  ここまでの距離を計算しなかったから、たどり着けるか心配だったけれど、距離は15㎞ほどだし、時間もまだ早い。余裕! と言いたいところだけれど、上り下りの連続で足が少しおかしい。なめらかな歩行ができず、ぎくしゃくしている。

 18分後に電車が出る。間に合うかどうかわからない。ぎくしゃく、ぎくしゃくしながら、駅までの長い道を必死こいて歩いた。一つ後の電車だって一向にかまわないのだが、是非とも間に合ってみせる!! なんていう気持ちが湧き立つのはどうしてだろう。

 

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 今日の印象は、まず新緑、若葉にまみれ、

 登ったり登ったり、ときに下ったり下ったり、

 最後が台地の上の長閑な旧街道だったなあ。