doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

花も若葉も

 

 遠くに見え隠れする丘陵の頂が何だかもわもわしている。はや若葉!?

 

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 忘日、もわもわに誘われて滝山城址へ。

 多摩川の橋から眺めると、城址へ続く尾根道を持つ丘陵は、若葉の萌黄色と桜の白となにかの赤茶色と混じり合って、湧き出すように溢れていた。例年だと桜が散ってしまってから、おもむろに若葉の季節だが、どうやら今年は一緒くたらしい。

 

 

 落葉樹の林が続く尾根道に入る。生まれたての若葉が淡い緑に霞んでいる。たぶん、森が一番美しいときなのでは、と思う。今年は芽吹きがすこし早いのでは? と思えるのだが、ともあれどんぴしゃりのタイミングだったようだ。 

 

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  しばらくは柔らかな若葉が芽吹く雑木林が続く。行きかう人とてなく、小鳥(名前は無論知らない)の声だけが聞こえる。森閑としているけれど、沈黙の春ではない。もしも若葉に声があれば、そのざわめきは相当なことになるだろうと思う。

 少し開けたところに畑がある。なにも栽培されてはいないようだが、手入れだけはなされているらしく、草はきれいに刈り取られ、その隙間にタンポポと、か弱いスミレが目につく。山路来てなにやらゆかしスミレ草、って誰だっけ?

 

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  古峰ヶ原園地を過ぎると空が開け、若葉の中にソメイヨシノやら八重桜やら山桜やら、なんとヤマツツジまでが咲き乱れる。ヤマツツジは、はっきり5月のはずだけどなあ? と驚いてしまうけれど、やむを得ぬものは仕方がない。

 春先の花々が全部一斉に、せ~ので咲き、消えるときも、せ~ので一蓮托生、いなくなってしまうのだろうか? だとすると、秋までの長い間ずいぶんさみしいことになりはしないか? ま、いまはそれどころじゃないか?

 

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  滝山城本丸の近くは、まだソメイヨシノが満開状態、薄日にきらきらと白い花びらが煌めくような按排になっていた。様々な淡い色が混じり合い、溶け合って春の時がゆったりと過ぎていく。瞬間を何とか止める手はないものか?

 

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  本丸跡にはいかないで、中曲輪で多摩川を眺める。あの光るのは、阿武隈川。。。じゃなくて多摩川、都会の川にしては澄んだ水が流れる多摩川。後ろのビルが少し邪魔だけど、わが麗しの多摩川なのだ。

 眺めながらこう思う。地方に18年住んで、多摩地方には40年住んだ。とすれば、わが故郷は多摩でもいいのではないか? わが故郷を多摩地方と決めてしまって、ほんとの故郷のように、愛着を持って然るべきや? 

 

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 このあたりで丘陵地を降り、多摩川べりの小さい平地に出る。ここでは東京ではほんとに珍しく田んぼが広がる。けれど年々歳々、田んぼが減っていき、畑に変わる。それも減っていき、近い将来は草原になってしまうのかもしれない。なんといっても、耕す人がいないらしい。大都市近郊どこも同じか?

 

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 山際の細道を歩く。意外やこの細道は野の花が多い。毎度のことながら、花の名前は知らない、が見ているとなんだか愛おしいような気になる。花壇の花とそこが少し違うような気がする。なんでだろう?

 二輪草というのかな? なんだかわからない紫、白い華鬘草かな? なんとかスミレだね。こういう花々は、ほんとにその時期が短い。春先のあっという間、あとは花なく実なく葉っぱのみ空しく時を経る。けれど毎年花をつける。

 

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 小さな平地が尽きる辺りにトンネルのような薄暗い切通がある。この切通の上は戦国時代の「高月城趾」だというが、面倒だから登ったことはない。切通を抜けるとそこは畑が一面に広がる、別天地のような、忘れ去られた里のようなお気に入りの場所だ。

 丘陵と秋川に挟まれて、畑だけが広がり民家は1軒だけしかない。畑を貫く道は砂利のままだし、道脇の土手に緑なすハコベが萌えているし、タンポポや土筆がはびこり放題だし、まるで遠い昔の田舎の風景のようだ。

 

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 畑を取り囲む低い丘陵に若葉が、まるで泉が湧き出すように盛り上がり、自己主張し、春の陽にきらきらと輝く。このような光景は今の時期しか見られない。若葉の淡い萌黄色は、やがてべったりと緑に変化して、山全体が緑に固まってしまう。

 

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 土手の草に腰を下ろして握り飯を食う。ぼんやりと山を見ていると、そくそくと郷愁に包まれる。あのころ、そう、もう戻らないあのころ、目にしていたのはこんな光景だったのではないか、こんな光景に暖かく包まれていたんじゃないか。

 道端の草さえ懐かしい。年寄りは嫌だねえ、郷愁だけなんだから! なんとでも言うがいい。郷愁だけで悪かったな、前がないんだから仕方あんめえし、見てろ、お前たちだってそのうちそうなる。ひととき郷愁に浸るに、なに悪かろうゾ。

 

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 懐かしきわが故郷を過ぎて、家並みの中へ入る。きれいに植え込まれた庭の花々が、これはこれで美しい。背後の新緑とお互い照り映えて、春や春、爛漫、という感じがする。美しきもの見し人は・・・って誰が言ったかな?

 まるで花かと見がもうばかりの、楓だろうか、初めて見た。こんな木もあるのだなあ、と一人感心する。この葉っぱは秋にはどんな色を見せるのだろうか? まこと、命の世界は多様にして驚嘆!

 

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 若葉と花と、十二分に見せてもらって満足満足! 

 

 まだ日は高いけれど、ま、帰るとしよう。

 

 風呂から上がって、自家製梅干を肴に、

 

 今夜は久しぶりに、ウイスキーを一杯、二杯。

 

 ああ! 至福なり!

 

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