doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

川越線を行く

 

3回目の接種が済んだので、大威張りである。

威張って、ふんぞり返って、川越線に乗り、沿線を歩こうと思う。

 

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 川越線は大いなるローカル線だ。そのローカル度において、八高線にはいささか劣ると言えど、単線、30分間隔の運行、駅間距離3㎞~4㎞は、それ相当のローカル度と言っていいと思う。このうち、高麗川~川越間14.5㎞を歩く予定。

 

ファイル:Linemap of East Japan Railway Company Kawagoe Line.PNG

 

 

 大いに威張ってふんぞり返って電車に乗ったでので、車窓に真っ白い富士の、大きな頭が見えた。空気が澄んでいるのだろう、青い空にくっきりと映えている。手前の山は藍色に染まり山肌はうっすらと雪化粧、いい景色なのでぼ~~っと眺めていた。

 ふと気付くと、がら透きの車両に乗り合わせた数人の、だあ~れも窓の外に目を向けている人はいない。全員スマホを見ている。もったいない、いい景色なのに。でも、ぼ~~っと外を見ているのは自分だけ、逆にこっちがアブナイ人に見られて・・・

 

 

 そんなわけで高麗川駅到着。側線に高崎行きのおんぼろディーゼルカーが止まっている。ここから先の八高線は非電化、ぶるるんのディーゼルカーがゆらゆら走る。この線は廃線されんじゃないか? それは困るなあ。川越線は東へカーブして別れていく。

 駅の反対側に行くには、ちょっと離れた踏切を越えなければならない。踏切に行ってみると川越線の線路がぎゅい~んとカーブしている。一見複線に見えるが右側は側線、すぐに途切れる。もう一本、太平洋セメント工場への引き込み線路跡も見える。

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 駅の反対側の道を駅舎側に戻ると、小畔川という小川が東に向かって流れている。この小川の脇には図書館やスーパーなどもあり、ちょっとした繁華な地域。その小川の岸辺には遊歩道が設けられているから、そこを歩く。

 天気はいいのだが、北東からの風が冷たい。もしかするとこの冬の最後の寒さかも知れない。だったら、この風の冷たさを存分に味あわないと、今年の冬の寒さはもうないかもしれない。寒い冬の日もこうなると名残惜しい気がする。

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 小畔川の遊歩道がなくなった。その先、細い道がくちゃくちゃ入り組んだ場所に小さな祠がある。南無妙法蓮華経と書かれた石碑が並んでいる。この祀り方がこの地方独特のものかと思った。とにかく人の背丈ほどもない小さなお堂なのだ。

 その祠の裏側に川越線の線路と踏切があった。右も左も見晴るかす真っ直ぐ、電車など通りそうもないほど静まった、単線の侘し気な線路。いかにもローカル線らしい風情ではないかと思うが、そんなこと言うと沿線の住人に怒られるナ。

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 線路を越えて畑の道に入る。ふと振り返ると、周りを取巻く青い山並みがきれいだった。頂上付近の雪の薄化粧が光って見える。空には薄い綿のような千切れ雲が浮かんでいる。お昼近い時刻だから風も弱くなって、日差しに佇む家々の眺めが長閑だ。

 この冬は各地で死ぬほど雪が降ったらしい。厄介者の、邪魔者の、嫌われもので始末におえない雪だが、その始末におえなさは、現地で暮らす人以外は案外実感できないだろうナ。鈴木牧之じゃないけれど、所詮雪の風流なんぞ暖地のたわごとだ。

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 畑の道は2車線道路に突き当たって終わった。道路の左側は大きな区画に区切られて、新興住宅地の趣を呈している。が、そのほとんどは畑地のまま残っている。思うに、大規模住宅地を造成したが、思ったほど住宅が建たなかった、という感じがする。

 東京近郊とは言え、交通の便が良くないと絵にかいたなんとやら、なのだろうなあ。40年前ぐらいの昔、遠い土地の山を切り崩して宅地がぼんぼんできたけれど、それはあまり成功しなかったように思う。これからは人口減少の時代、万事落ち着くのだろう。

 

 

 真っ直ぐな2車線道路をしばらくの間、ぽくりぽくり歩いた。が、なんともつまらない。すっかり厭きて、やおら線路方面への細道に入る。くねくねした細道を歩いていくと線路に突き当たり、その先に最初の駅、武蔵高萩駅が見えた。

 鮮やかな緑の駅舎は跨線橋を備えた立派なもの、おりしも電車が停車していた。川越線の車両は、都内を走るものとおなじようにきれいだ。きれいすぎて沿線の風景や他の駅舎のたたずまいと、何だかちぐはぐ・・・だが、それはよそ者の言い分。f:id:donitia:20220224142213j:plain

 

 

 駅前のロータリーも完備されているが、お店も、人も、車も何もない。陽だまりの縁石に腰掛けておやつを食す。植え込みに風を遮られてぽかぽか。やっと最初の駅、前途は遼遠だな、と思う。それにしても何でこんな所をとことこ歩いているんだろネ。

 今度は線路に沿った細道を、あっちにくねりこっちに曲がりしながら歩いた。そして国道409号に突き当たったので、そこから逸れてさらに南下してみたら、日高市総合公園という場所に出た。思いがけないことであった。

 公園の梅はまだ咲ききっていない。その代わりマンサクの花を見た。公園内は人影もまばら、小さい子が数人遊具で遊んでいた。芝生の広場の幼い子と母親が可愛らしかったが、何しろ被写体まで遠い。せいっぱい拡大してパチリ。

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 公園を抜けると県道に出た。次の笠幡駅は県道のすぐ脇にある。止むを得なければ仕方がないので、我慢して歩いた。圏央道の下をくぐって川越市に突入。足の故障もないようだし、おしおし! 今日は歩けるぞ~。

 笠幡駅は武蔵高萩と打って変わって小じんまりしていた。駅前に広場のスペースがなく、駅舎から離れた脇にロータリーが作られている。腹が減ったのでロータリーのベンチで握り飯。晴れ渡っていた空に薄い雲が広がりつつある。

 駅入り口で高校生がたむろしている。近くに秀明学園というのがあるようだ。電車が発車したら、ホームにぽつんと一組の男女高校生が残った。残ったのはいいが、怪しからんことに昼間からいちゃいちゃしているではないか。ま、幸有らんことを。

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 県道を歩くのが嫌なので、駅舎から離れた狭い陸橋を渡って反対側へ行く。駅近くのくねくね道を抜けたら、ど~~ん! 田んぼが広がった。すんげえ、いい気分じゃなかですか。胸がせいせいして、再び冷たくなってきた風もなんのその。

 日ごろくちゃくちゃした場所に住んでいるので、どんと広い景色を見ると奇妙に嬉しがる。両手を一杯に広げ、肺腑にごっそり空気を入れ、つま先まで深呼吸し、脳みそに新鮮な空気を充満させたような気分になる。

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 田んぼの畔道にいささかの春の兆し。あいも変わらずオオイヌノフグリホトケノザ。でも、ここは我が街と比べほんの少し春が遅いようだ。我が街からほんの少し北へ来たに過ぎないのに、そんなに変わるもんじゃないと思うが。

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 右手に土手が見えたので来てみたら、ふかふかした草の道。ひゃほーい! こういう道が最高じゃ、柔らかいから足にいい、草を見ながら歩ける。願わくば日本中がこういう道であってほしい。ん? 車が走れねえ、かまったこっちゃない!

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 土手の道が関越道に突き当たった。穴が開いていて通れるからそのまま進んだら、あれ? ここはどこ? 私は誰? になってしまった。右手はなにかの工場敷地みたいで大きく囲ってある。左手はこじゃれたマンション群らしい。

 マンションの方からすらりとした上品そうな女性が歩いてきたので、即道を聞く。次の的場駅までを、ああ行ってこう行って、と優しく教えてくれたが、地図を一枚ぴらりと出して、いまどこにいるのか聞くと、ちょっと見てすぐ、あらここよ! という。

 細かくて分かりにくい地図を即座に読んでしまった。頭のいい人に違いない。背が高くて、上品で、頭がよさそうで、なんだか知らないが早く逃げ去ってしまいたくなった。そそくさとお礼を言って歩き出したら、お気をつけて、と優しい言葉が背後から。

 

 

 的場駅も小さな駅舎だ。がらんとして乗客も誰もいない。空に雲が広がって風が冷たい。今日はついに一日中手袋が離せなかった。「寒い冬の日もこうなると名残惜しい気がする」なんてほざいたのはどこのどいつだ!

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 ここからは何が何でも、いやでも応でも、県道を歩かねばならない。この先の入間川を渡る橋が県道に架かる橋ぐらいしかないのだ。国際大学のキャンパスが見える。だんだん義務として歩いているような気がし、すこしも楽しまない。

 入間川の橋に来た。川風が一段と寒い。これを渡ればこの県道沿いに西川越駅がある。どうしようかなあ、寒いから西川越から帰ろかな。ここまでくれば川越まで歩いたのも同然だろう・・・とお決まりの弱音がでた。

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 西側越の駅も小さい。風をよけて待合室のベンチで休憩。歩数計は家を出てから17㎞になった。だが足も体もなんともない。時刻は3:30。さあ、どうする。 寒いから(と言ってもたかが知れているのだが)、ここで撤退か?

 

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 人に聞いてみた。ここから川越駅までは何キロ? 時間はどのくらい? 二人に聞いたら二人とも、2,3キロ、40分ぐらい、とのこと。う~む、まだ日は暮れない、体も異常なし、これで泣き言を言ってどうする、お~し、いったれ~。

 ここから先は地図がない。川越には西武線本川越」、東武線「川越市」、そしてJR「川越」と三つも別々に駅がある。このため駅周辺はごちゃごちゃしていてわかりずらい。目指すはJR「川越」。何回も道を聞きながら行く。

 何人もに道を聞いて、はっと思いだした。私はスマートフォンを持っているではないか。な~にをやっているのか! でもネ、スマホ地図では駅近くの細道が行き止まりになっているのだ。ところがぎっちょん! 教えてもらったら、幅50cmmほどの踏切があるという。こんなのはわかんないよ~。

 

 

 寒さに泣きながら16時30分ごろ川越駅にたどり着いた、が、だ、どれがJR駅舎かわからない。駅前にいたギャルに聞いたら、2階と言ったので、目の前の階段を上って、あったー! 夢にまで見た川越駅、もう逃がさんぞ!

 ホームに降りたら北風がびゅ~~~。今度の電車は高麗川行16:43。その後八王子行17:05。こんな寒いホームで30分も待てるか! もしかすると高麗川で折り返しの八王子行があるかも、と自分に都合のいいように考えた。

 で、16:43の高麗川行に乗り込む。うう~~助かった。暮れていく今日歩いた沿線を眺めながら、高麗川着。・・・やっぱりナ、あるわけないよナ、折り返しの八王子行。結局、川越駅17:05発の電車が来るまで、高麗川駅のホームで、北風ぴゅ~~。

 

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 寒かったが面白かった。

 総歩行距離=21.3㎞。

 心配した足首は全く異常なし。 

 風呂入って寝よう。