doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

薄曇り? よ~し

 多摩川の近くに小さな川が3本ある。

 野川、矢川、根川、いずれもハケ(崖線)の下にちょろちょろ流れ出ている。


 

 今日はこのうちの矢川に沿って歩こうと思う。だいぶ前のことだが、麦わら帽子をかぶって自転車に乗ったおっさんが、矢川は立川高校の下から流れている、と教えてくれたので、とりあえず立川高校へ行く。

 高校のグランドとその下の道とは4,5メートルの段差があって、即ち立川崖線だが、川などどこにも見えない。道路の下に埋まっているらしいから、その道路をとことこ歩いていく。こんなことをしてなんになる、という考えは封じ込めねばならない。



 歩いて行って広い交差点で左右を眺めると、左側から右へ坂道になっているから、やっぱり立川崖線だと分かる。しまいに道路が切れたところで、下から水がちょろちょろと流れだした。これが矢川の、か細いような情けないような流れらしい。向こうの道路の下のトンネルに入っていく。

 

 

 矢川が流れ込んだトンネルの上は道路であり、その道路を越えた向こうに湿地帯がある。矢川の水と、湿地帯で湧き出した水とが合わさって周りを潤している。どちらも立川崖線の下からの、要するに地下水、だから澄んでいてきれいだ。

 湿地帯の中はすでに夏草を思わせる緑がたくましく伸び、周りを囲む樹木も若々しい緑の葉を思い切り伸ばしている。草の脇の細い水路を覗いてみたが、魚の影は見当たらない。地下水の湧き出し口から魚が顔を出すはずがないから当然だろう。

 

 

 木々の緑が意外に明るい。まだ葉っぱが若葉だからなのだろうか。木道にその若葉を通して薄曇りの空から陽が射し、木洩れ日が丸い形を作っている。街中なのに森閑と音が消えたように感じるのは、恐らく脳みそがそう思おうとしているせいではないか。



 湿地帯の奥へ行くと、先ほど道路下のトンネルに消えた矢川の流れが顔を出して、こっちへ流れてくる。ここで湧き出した水を集めたのか、水量が増えているように思う。ちらほらと人の姿が鬱蒼とした樹木の間に見えるが、相変わらず森閑として音がない。

 上端に穂のようなものを着けた草が群生していたが、カヤツリグサというのだろうか、なんにしろ何も知らないのだからどうにもならない。こういう時に、ぼうお~~っと何も考えずに過ごしてきたここまでを、いたく反省する。時すでに遅かりし。

 

 

 湿地の中の水路脇を歩いて行くと、カモ(カルガモか?)が水から上がって昼寝をしていた。近づいても逃げない、どころかスルドイ目付きで、あんだよ、昼寝を邪魔すんじゃねえだよ、くそ爺い! なんていう。

 こうまで言われて面白くないから、首根っこを捕まえてひねってやろうと思ったが、敵の目の光り具合にたじたじとなって手をひっこめた。腰が引けている、これで勝負あった。自分より小さい奴に負けて大変悔しい。

 

 

 カモから逃げるようにして湿地帯の中を歩き、そうして抜けた。矢川の流れ出しが一丁前の川のような顔をして流れている。ここからこの流れに沿って歩くつもりだ。静かな町の中をさらさら、と本当に小さな水音を立てて流れていく。 


 

 そうして小さな公園に来たので、ここでおやつ休憩。目を上げれば、やっぱり樹木の葉の緑が美しい、緑陰を涼しい風が吹き抜けていく。梅雨の合間の、まだ殺人的夏に入る前の、風がなんとも言えない。

 

 

 また矢川の流れに沿って歩いて行く。ところどころに水辺に降りる階段があって、その石段が古びていて、つい何十年か前まではこの水が生活用水として使われていた、と思わせる。か細い流れでも大切な水だったに違いない。

 そして甲州街道に突き当たり、突っ切って細道を進んで滝乃川学園の門前に出た。矢川の流れを追うのはひとまずここまで。隣のお寺の静かな境内で昼飯を食い、ゆったりと休憩して、気分も上々。

 

 

 昼飯のあとは青柳崖線の下を巡る。まずは「矢川おんだし」。滝乃川学園の敷地に消えた矢川は、そこを流れ下って崖線下に出てきた。出てきたから「おん出し」というならむ。水はなお澄んで綺麗だ。

 真正面の森が青柳崖線でその奥に滝乃川学園がある。右の水路がおん出された矢川の流れで、左はこれから行く「ママ下湧水」の流れなんだろうと思う。どちらも湧水だから浅い流れは清冽に見える。

 

 

 そこからママ下湧水に行った。まだ枯れないで湧き出している、よかった。近頃ハケの湧水はあっちこっちで枯れているらしいので、油断も隙もあったもんじゃない、うっかりしていると枯山水みたいなものを見せられる。 

 

 

 さあて、では青柳崖線を辿って谷保天神まで行き、ちょっとご無沙汰した立川崖線に会うこととしよう。立川崖線はあの湿地帯からおおむね南武線の線路に沿って東へ向かい、谷保天神で青柳崖線と合体する。

 というより青柳崖線が立川崖線に溶け込んでしまう。ごちゃごちゃと何とか崖線などとこいてみても、世のなかに何の関係もないけれど、そんなわけでひとまず谷保天神を目指すのだ。谷保天神に到着。

 

 

 谷保天神にも湧水があり、これは立川崖線から流れ出る。湧水の池の中に厳島神社が祀られ、赤い手すりが鮮やかに目に映えるのだが、池をのぞき込んでもどこから湧き出しているのかよくわからない。しかし流れ出しのちょろちょろと流れるさまは、やっぱりなにがしかの量が湧き出しているのだろう。

 境内のベンチで鬼のように休憩し、ぼう~~っと時が過ぎてゆく。鳩の群れが舞い降りてきて、ペアになって追っかけっこをしている。なにをしているんだろう、すこし大柄な奴がとことこ逃げる少し小柄の奴を追いかける。

 ぼうお~~っと見ていて、このペアは男女なんじゃないかと気が付いた。鳩はこの時期繁殖するのかどうか、そんなことも知らないが、観ていてもなかなか成就しないようだ。どこの世界も難しいもんだなあ、と思う。

 

 夕方になったから帰った。

 意味のない暇つぶしだったが、

 家にいても何もせず暇をつぶすから

 どっちも意味はない。

 しかしそれも仕方がない。