doniti 日誌

( おもしろき こともある世を おもしろく)

旅の食う寝る

 

      養老天命円天地の土手の花。名前を知らない)

 

 

 旅行で知らない土地を訪れるとなれば、是が非でも旨いもの、それもついぞ食したことのない珍しいものを食いたいと思う。

 しかし一日は三食、無限に食えるわけではない。朝飯はコンビニ飯でも何でもいいとして、昼と夜は慎重を期さなければならない。ではあるが、知らない土地で昼飯の旨い店を探すのは極めて困難だ。店を知らないから、それを探しているうちに夜が明けてしまう。

 結局のところ、観光スポットのどこにでもあって、やたら値が高いうえに旨くもない店に入らざるを得ないようになってしまう。(人の味覚はそれぞれであろうから、これはあくまで個人の感想です)

 今回、北陸山陰を経巡ったが、結局昼飯に立ち寄ったうちの半分はこのような店になってしまったように思う。たしか若狭市内だったと記憶するが、街道沿いに水産センターのような大きな店があり、入ってみたら、やたらサバを売っていた。なぜサバ? と聞いてみると店番のおばさんが、鯖街道だからよ、と言ったので小さな店でサバ定食を注文したが、これがぱさぱさのサバ。焼いているものは旨そうに見えたが、冷めてしまったものを温め直して出したらしく、バサバサのサバ。がっくし来た。

 また米子半島、水木しげるロードの近くに、これも大きな水産物直売センターがあった。覗いてみると、海産物を並べて好きなものを取り、丼などに仕立ててくれるらしい。蟹などをつついている観光客もいた。まさかまだ蟹の季節でもないだろうと思い、付属の食堂で海鮮丼を頼んだが、旨くもなんともない。あ~あ、とため息が出た。

 観光地のこの手の店は、概して全国的にこのようなものであるらしい。(あくまで個人の感想! ) かといって、街中のそれ相当の店を見つけるのは、前述の如く困難だ。たかが一見の観光客と侮って、旨くもないものを高値で売るこの手の商売は、遠からぬうちに馬に食われて衰退するであろう、と念力をかけて置いた。

 

 

 

 さて、夕飯である。旅の夜は、街の中の居酒屋のカウンターでゆるゆると過ごしたい。その土地の辛口をちびちびしながら、珍しい食い物をほんの少し頼んで、カンターの向こうのおかみさんと話したり、隣の地元の人に話を聞いたりして、はしごをしたい。

 糸魚川で泊まった時は、教えてもらった居酒屋が臨時休業、やむなく適当な居酒屋に入った。「さび猫」という聞いたことのない辛口の地酒がめっぽう旨かったし、つまみもそれなりに旨かったが、惜しむらくは今どき流行りの個室式であって、カウンターでのおしゃべりができなかった。

 丹後半島の宿は山の中にあって、街場から相当離れている。そこへ行ったはいいが、予約の行き違いで夕飯なし! 街場に戻ることもできず、宿をキャンセルも出来ず、仕方がないので持参のウイスキーばかり飲み、少しばかりあった乾きものを口にした。自分は飲むと食いたくなくなるからいいが、同行二人はさぞ腹が減って眠れなかっただろうと、同情これ禁じ得ない。

 松江の夜は願い通りどんぴしゃりだった。宿のおかみさんに聞いた最初の店は、「七冠馬」という地元の辛口を出してくれ、実に旨く、するすると喉を通った。お通しはお猪口に鯛の山掛けだったが、ひとくち口に入れた途端旨い! と思った。それで、出雲蕎麦をつまみにして辛口を二杯ばかり飲んで、大満足して次に回った。

 二軒目はカウンターの居酒屋。名前は忘れたが、ここの地元辛口も旨かった。ちびちびやりながら隣の地元人と話をする。松江は落ち着いたいい街ですね、というと、鳥取もいい街ですよ、という。日本海側の街はいずれも、どこかしっとりした風情があるのかもしれない。つまみに出してくれたなんの変哲もない鯵の刺身が目をむくほど旨かった。

 三軒目に回る頃にはだいぶ回っていたようだ。アナゴの煮つけが旨く、地酒もするする喉を通ったが、もはや腹に入る余地がなく、失礼だったが隣の大阪から来ているという若いあんちゃんにつまみの残りを置いて、外に出た。いずれも代価は1500円から2000円程度、安くて旨くて落ち着いて、申し分がない。

 

 

 こんな按配に旅の夜を過ごすので、寝るところは、他人様や世間様と大いに違っていて、正直どんなところでもいい。夜露が凌げて布団があればもう文句なしである。なんといっても酔って帰ってただゴロンと寝るだけだから、なんでもいいのだ。

 実際この旅も、宿は飛び切り安くて少々変わった宿ばかりだった。自分はそれで十分なのだが、同行二人にはいささか迷惑だったかもしれなかったなあ。そういう意味で、旅は一人がいいけれど、今回のように長い旅は一人ではなかなかできずらい。

 

 

 同行二人にはおおきに感謝するとともに、

 もうこんな旅はできないかもしれないという

 一抹の寂しさを抱えながら帰ってきた。